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 ←〈12〉 強力な秘薬 →〈14〉 千鶴の進退
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「雪割草シリーズ」
金銀花

〈13〉 香代との再会

 ←〈12〉 強力な秘薬 →〈14〉 千鶴の進退
千鶴が男になってから、助三郎はほぼ毎晩早苗の腕の中で泣いた。
早苗は、そんな彼をただ慰めることしかできなかった。
 
 ある晩、助三郎は格之進を呼び出した。
早苗は男に変わり、夫の前に座った。
 すると、助三郎は笑って言った。

「格さん。朝まで飲もう」

「朝までって、お前が潰れるのが先だろ?」

「そんなことない。いいから、飲もう」


 少し酒が進んでから早苗は聞いた。
酒の席では完全に早苗は早苗、格之進は格之進。
そういう決まり事になっていた。

「……で、なんで俺を呼んだ? 今日は姉貴はいいのか?」

「……さすがに悪いからな。毎晩泣いてばっかで、あいつの大事な着物が色あせちまう」

 早苗は明るい気分にさせるため、助三郎をからかった。

「さてはそんなに物が悪いのを着せてるのか?」

「酷いこと言うな。確かにあんまり買ってはやらないけど、この前綺麗な反物贈ったんだ。まだ仕立ててないけどな」

「ほぅ。お前にしてはやるな」

「あれを着たらめちゃくちゃ奇麗だぞ。お前に見せてやりたいな」

ノロケを言われ、早苗は恥ずかしくなった。
ただ一言だけ、眼をそらして返した。

「あ、そう……」

 すると助三郎はニヤリとしてこう言った。

「……やっぱり女に興味がないか?」

 そんな彼と同じように早苗はニヤリとし、こう返した。

「いや、美帆には物凄く興味がある」

「…………」


 たわいもない話をして笑い合っていたが、酒がまわると助三郎はダメだった。
どんどん暗くなっていった。

「格さん。俺、兄貴失格だよな?」

「なんでそういうこと言う?」

「……ふざけて、妹を弟に変えちまった。たった一人の妹だったのに。弟になっちまった」

「もう諦めろ。千鶴は血の繋がった本物の弟だ。それでいいだろ?」

「……いいや、弟は義弟のお前で十分だったんだ。高望みし過ぎたんだ。俺には、妹だけでよかったんだ」

 そういうと、泣きだした。

「おい、泣くなよ。今日は泣かないつもりじゃなかったのか?」

「格さんならいいと思ったのに。やっぱりダメだ…… 早苗……」
 
 そう言って、縋りついてわんわん泣き始めた。
男が男にそんなことしている光景はみっともないので、早苗は女に戻った。
 そしていつもどおり抱き締め、慰めた。

「……助三郎さま。もう泣かないで。泣いても何も変わらないわ」

「俺のせいだ…… 妹の人生を奪っちまった……」



 

 一方千鶴は謹慎処分で、屋敷の外からは一歩も出られなかった。
しかし、千鶴はどうしても香代に逢いたかった。
 『ずっと逢える』と約束しておきながら、守れていない。
何度も抜け出そうとしたが、毎回弥七に見つかり連れ戻された。
 考えた末に、文をしたためることにした。男になってから初めての文は自ずと恋文になっていた。
逢いたい気持ちを込め、クロに託した。
 今か今かと返事を待つと、その日の夕方返ってきた。
 そこに記された香代の言葉からも、千鶴と同じ気持ちが見てとれた。
 千鶴は意を決し、どこどこで何時に待つと記した紙切れを、再びクロに託した。

 その約束の日、家を抜け出し香代との待ち合わせ場所に向かった。
いつも捕まっていたにもかかわらず、すんなりと抜け出せたことに驚いたが、深くは考えなかった。
 
 それは、助三郎と早苗の賭けだった。
千鶴と香代が一時の気の迷いで一緒に居ただけなのか、本当に惹かれあっているのか確認をしたかった。
 もしも前者ならば、問答無用で千鶴を世間から隔離し、女に戻す手立てをなにがなんでも探す。
逆に本当に互いに求め合い愛し合うのならば、考える余地を残す。美佳の助言の末の決断だった。
 香代への密書は弥七が予め察知し、水野家には当主と下男の出向を依頼した。
 千鶴と香代の待ち合わせ場所は、佐々木家、水野家両方の者に囲まれることとなった。




 待ち合わせの場所についた千鶴は、香代を見て顔を綻ばせた。

「香代!」

 名を呼ばれた香代も、喜んだ。

「千鶴! 今までどうしてたの? 逢いたかったのよ……」

「だから、逢いにきたんだ。俺もずっと会いたかった……」

 二人の手が触れようとした矢先、お銀と弥七が間に割って入った。

「残念だけど、香代さん。近づいてはダメよ」

「お銀さん? なんで!?」

 一方、弥七は千鶴を眼で制した。

「千鶴さん、外出禁止なはずですぜ」

「弥七さん!?」

「帰りますぜ。さあ」

「イヤだ…… 帰らない!」

 千鶴は弥七の前から逃げ出し、お銀を交わし、香代の手を掴んだ。

「香代、行くぞ!」

「行くって、どこ行くの?」

「水戸には居られない。国を出よう。そうすれば一緒になれる!」

「嬉しい!」


 二人で逃避行のつもりだったが、すぐに阻止された。
逃げた先には佐々木家の面々が立っていた。
 助三郎は千鶴に向い怒鳴った。

「駆け落ちなんてバカな考えはやめるんだ!」

 しかし、当の本人はそんなことは聞いていなかった。

「くそっ。香代、あっちだ!」

 突破は不可能と判断し、違う方向に逃げだした。
 しかし、その方向には水野家の面々が。

「香代! 無駄なことはやめなさい!」

「父上!?」

 二方向から挟まれ、千鶴と香代は焦った。
それを見た、助三郎が命を下した。

「今だ!」

 香代は千鶴と引き離され、お銀と水野家の下男数人に囲まれた。
いつもおとなしい香代も、さすがに我慢ならず必死に逃げようとした。

「家になんか帰らないわ! 千鶴と一緒に行くの!」

 お銀はそんな香代をなだめた。

「香代さん我慢して。そんなこと無理よ」

「イヤ! 千鶴と一緒じゃなきゃイヤ!」

 激しくわめく香代をお銀は睨みつけバシッと言った。

「静かにしなさい! 帰るの!」

 お銀に怒られ、下男達になだめすかされ、香代はしぶしぶ家に連行されていった。


 一方、千鶴は佐々木家の下男たちに力で取り押さえられた。
作戦の時点で、元お嬢様をそんな風にできないと、下男たちは渋った。
彼らを助三郎は叱り、もう女ではない、慈悲は要らんと冷徹に言い放った。
 そんな夫を、早苗は黙って見ていた。
泣き顔を早苗の前でしか見せられない。一家の主、佐々木家当主の重みを背負う夫を何も言わずに見守った。
 千鶴は男たちに押さえつけられながらも力任せに暴れた。

「香代! 行くな! 香代!」

 あまりに凄まじく暴れ、下男たちの手を煩わせた。
とうとう兄助三郎が怒鳴りつけた。

「黙れ! 騒ぐんじゃない!」

 すると、千鶴はすぐに暴れるのを止め、じっと助三郎を見上げて聞いた。

「……兄上。なぜですか? なぜ香代と会ってはいけないのですか?」

 助三郎は返事をしなかった。
その代り視線を弟からそらし、下男たちに下知した。 

「……家の蔵に押し込めて見張っておけ。いいな?」

「はい」

 下男数人に連行されながら千鶴は喚いた。

「なぜ無視するのですか!? 兄上!」

 助三郎は呼ばれたが、一度も彼を振り向きはしなかった。
 

 その場には助三郎、早苗、香代の父だけが残っていた。
助三郎は佐々木家当主として、千鶴の兄として、香代の父である水野家当主と話し合う必要があった。

「……これからよろしいでしょうか?」

「はい」


 皆で、水野家の屋敷へと向かった。
居間に通され、少し待つと香代の母親も出てきた。
 四人の話し合いの席の口火を切ったのは助三郎だった。

「お言葉ですが、水野様は香代殿に見合いを強要されているのですか?」

「……そういうつもりではありません。良い婿をと焦るあまり、やり過ぎたのかもしれませんな」

「そうでしたか……」

 すると、香代の母が付け加えた。

「一日五人という日も有ったんです。少しやり過ぎでしょう?」

「……そうですね。それで、香代殿と水野様のお目に適った方は?」

「私は数人目星をつけたのですが、香代が全く乗り気ではありません」

 すると、母親からはこんな言葉が返ってきた。
 
「わたしは、娘に好きな殿方がいるのではと言ったんですが。香代本人が何も言わないので……」

「……そうなのですか?」

 父親はこのことを知っているのか、助三郎は確認を取った。

「はい。妻から聞いてすぐに香代に聞きましたが、だんまりを決め込んで…… しかし、さっきの一件で娘の気持ちがわかりました。……されど、あの若者は佐々木様の御親戚ですか?」」

「あれは、某の……弟です」 

「……弟? はて、いらっしゃったかな?」

「……信じて頂けないかもしれませんが、元は妹の千鶴です」

「え?」


 助三郎は早苗と一緒に事細かに事情を話し始めた。
二人が密会していたという事実は受け入れられたが、どうしても千鶴が男になった理由が理解されなかった。普通ならば有りえない『変身』を信じてもらうために早苗が格之進に変わった。このことで香代の母が驚きのあまり気絶するという珍騒動になったが、理解を得ることができ丸く収まった。

 香代の父は、助三郎に向い頭を下げた。

「佐々木さまには大変迷惑を掛けてしまった。たった一人の妹御を、うちの娘の為に…… 本当に申し訳ない」

「……お気になさらず。あれの身の振り方はこれからゆっくり考えます」

 すると、頭をあげさも不思議だというような感じで言った。

「特に決めてはいらっしゃらないのですかな?」

「はい。……次男とはそういうものでしょう」

「少しよろしいかな?」

 香代の父は、妻と手短に相談し助三郎に向い再び手をつき、頭を下げた。

「こんな時に失礼かもしれませんが、よろしければ、千鶴殿の婿入りの件、お考え頂けないでしょうか?」

「え?」

「……香代が一番好いているのは、千鶴殿。千鶴殿も、香代の為に女を棄て男になってくれた。
それを無碍にはできないでしょう?」

「はぁ…… まぁ……」

「佐々木様など、当家には手の届かないような御家柄。しかし、千鶴殿は龍之介の子です」

「……えっ?」

「助三郎殿も、龍之介の子。……千鶴殿は、娘を託すに値する男だと思うのです」

「……それはどういう?」


 まだ若い佐々木家の当主のきょとんとした顔に、水野家当主は笑った。
助三郎の父とは同年代。息子同然の歳である助三郎を微笑みながら見つめた。

「龍之介は、女に関してはクソがつくぐらい真面目な男だったのですが、聞いたこと有りませんか?」

「……はい」

「そうですか。ならばいい機会だ。お教えしよう。……美佳殿には内密に」

「はぁ……」

 よく聞く『内密に』という言葉。
助三郎は常日頃疑問に思っていた。しかし、今は父の話を聞けるまたとない機会。
雑念を追いやり、香代の父の話に聞き入った。

「龍之介はな、絶対に女を買わなかった。いつもつるんで遊んでいた仲間が誘っても絶対に行かなかった」

「えっ?」

「一番立派なのは、美佳殿を一心に愛し、どんな時も見捨てはしなかった事。短い生涯だったが、幸せだったと思う」

 助三郎は驚きを隠せなかった。
今まで聞いたことのない父の姿。
 一方、香代の母から同じような話が出てきた。

「美佳さんもお幸せな方。家も何もかも無視して、美佳さんだけ佐々木さまは見ていたの。あんなに旦那様に愛されて。わたしたちも憧れたんですよ」

「……そうなのですか?」

 一度も聞いたことのない母の過去。
未だに疑問や不明な点は残るが、今は突っ込んで聞く時ではない。
 もっともそうする前に、そんな疑問は吹っ飛んだ。 

「佐々木さまも、早苗さんも、同じくらい噂になってますよ。ねぇ? 貴方」

「あぁ。そういえばそうだった」

「え? どんな噂ですか!?」

「……手を繋いで歩いてるとか。いろいろ」

「やっと理由がわかりましたよ。佐々木殿と渥美殿が物凄く仲が良いのが。義兄弟ではなく、夫婦だからか。ハッハッハ」

早苗は助三郎とともに水野夫婦の言葉に真っ赤になってしまった。

「あ、いけない。冗談はこれまで。先ほどの件、是非ご検討頂きたい。よろしくお願い致します」

 深々と頭を下げる水野家夫妻に、佐々木家の二人も頭を下げた。


 帰り道、助三郎はぼそっと言った。
 
「……父上、母上って本当に仲良かったのかな?」

「一回も聞いたことないの?」

「……あぁ。母上から父上の話は全然聞いたことがない。なぜかわからないが、聞くと必ずはぐらかされるんだ」

「……そうなの?」

 助三郎は寂しそうな表情を浮かべ呟いた。

「俺や千鶴に言いたくない理由が何かあるのかもしれないな」

「そうね」

 しばらく沈黙が続いたが、助三郎が再び口を開いた。
そこからは、弱気な言葉は出てこなかった。

「ひとまず帰ったらすぐに母上と千鶴のことを相談だ。いいな?」

「うん」

「千鶴は、しばらく蔵暮らしだ。駆け落ち未遂で謹慎処分」

「わかりました」

「差し入れとかするんじゃないぞ」

「え。ダメなの?」

「当たり前だ。罰なんだから」

「はい……」


 千鶴の身の振り方が、決まろうとしていた。
同時に、助三郎の立ち直りも上手くいくように見えた。
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