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 ←〈17〉 夫婦、親友、兄弟 →雪柳 あらすじ
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「雪割草シリーズ」
金銀花

〈*〉

 ←〈17〉 夫婦、親友、兄弟 →雪柳 あらすじ
早苗と助三郎が旅立った日の晩、美佳は一人仏間に居た。
長男夫婦の無事と、次男の幸せを先祖に祈った。
 しかし、心配事が消え穏やかな気持ちになっていた彼女はふと思った。

「……早くお迎えに来てください。もうこれ以上一人は嫌です」

 しかし、そんなことを口にした自分を恥じ、蝋燭を消した。
自室に戻ろうと立ち上がった時、彼女の元に声が聞こえた。

『美佳……』

 何者かが彼女の名を呼ぶ声だった。
既にこの世には『美佳』と呼び捨てで呼ぶ者はいない。
 怪しく思った彼女は部屋を見渡したが、真っ暗な部屋には誰も居ない。
空耳だろうと部屋を出ようとした途端、再び声が頭のなかに響いてきた。

『……どうした? 気弱になったか? 見た目どころか、中身もフケたか?』

 からかうように言う声は男の声。
いつ以来かわからない、懐かしい声だった。
 美佳は溢れそうになる感情を抑え、声に向かって言った。

「余計なお世話です!」

 すると、声は笑った後少し寂しそうに言った。

『……なぁ、なんでこの前、会いに来てくれなかった?』

「え? いつです? 墓参りは毎月行ってるでしょう?」

『そう言えば、そうだった……』

 今まで一度も聞いたことがない亡き夫の声。
突然且つ異様な出来事に美佳はふと思った。
 さっき頭を過り、口にしたこと。

「今日は、お迎えですか?」

 しかし、その考えはすぐに否定された。

『なわけない。まだまだだ。お前にはやるべきことがいっぱい有るだろ?』

「なにを?」

『……馬鹿な親戚連中の対処だ。そろそろだ。お前の時みたいにあいつらがやってくる』

 神妙に言う彼の声に、美佳ははっとした。

「……そうでした。早苗さんを守らないといけませんね。助三郎のためにも」

『そうだ、身体に気をつけてこの家族を守ってくれ』

「はい」

 なぜかそこで、声が途切れた。
残念に思った美佳だったが、気を取り直し今度こそ自室に戻ろうと立ち上がった。
 しかし、またしても止められた。

 突然、恥ずかしそうに声が言った。

『……美佳、あのな、少しの間だけ時間もらったんだ。……こっちに来てくれるか』

「なんですか?」

 言われた通り、仏壇に向かって歩みよると、いきなりなにかに引き寄せられた。
驚いたが、よく見ると夫の腕の中だった。

 美佳の夫、先代当主、龍之助が目の前にいた。
 あの日以来会えなかった夫、あの日の朝適当に見送ってきちんと顔を見なかった夫が息子とおなじくらい若い姿のまま、美佳の目の前にいた。

「……貴方!?」
 
 驚いてそういうと、龍之助は美佳を抱きしめて言った。

「それはイヤだ。昔みたいに呼んでくれ」

「龍之助さま?」

「……美佳」

 彼は愛おしそうに美佳の頬に触れ、じっと見詰めた。

「……あの日浮かれてたのがいけなかった。お前に簪《かんざし》渡したくてな。……あれまだ持ってるか?」

「……ここに持ってます。つけるのはつらくて無理だった」

 美佳は肌身離さず隠し持っている簪を懐から出した。
それを見た龍之助は満足そうな笑みを浮かべ、手を差し出した。

「かしてみろ」

「はい……」

 言われるまま、簪を手渡すと龍之助はそれを美佳の髪に差した。
そしてじっと見つめて言った。

「似合う。……よかった。俺の目に狂いはなかった」

「ありがとうございます……」


 龍之助は再び美佳を抱きしめた。
なにも言わない、なにも聞かない。
 ただ、互いの存在を確かめあう。

 二人の間を静かな時間が流れて行った。

 
 部屋に日の光が差し込み始めた頃、別れの時間が来た。
次第に龍之助の姿がぼやけ、実体が無くなり始めた。


「……残念だ。時間切れだ」

「嫌です。行かないで…… 置いてかないで……」

 泣いて縋る美佳を、龍之助は慰め説得した。

「……いつか必ず迎えに来る。その時まで生きてお前の役目を果たせ」

「しかし……」

 美佳の眼に溜まった涙を拭い、穏やかに言った。

「これはお前にしかできない。お前の仕事だ。頼む」

 その強い眼差しに、美佳は折れた。

「……はい」

 再びじっと見つめあったが、突然龍之助が声を上げた。

「そうだ、言ってなかったことがあった。すっかり忘れてた」

 良い雰囲気をぶち壊す妙な性格は、助三郎がしっかりと受け継いでいた。

「なんですか? 貴方は大事なことすぐ忘れますね。助三郎がそこは似なくてよかった」

 クスリと笑った美佳だったが、既に夫の姿がほとんど消えかけていることに驚いた。
しかし、その夫の顔は再び真面目になっていた。

『美佳、今でも愛してる…… 生きてるうちに言えなくて、すまなかった……』

「構いません…… わたしも、貴方を愛しています…… いつか貴方の御側に参ります……」

『その時まで…… またな……』

「はい。また……」




 ふと美佳が気付くと、部屋は明るい朝日が差し込み眩しいくらいになっていた。
彼女は昨晩と変わらない仏間の光景を目の前に、さっきの出来事は夢ではないかと思った。
 
 念のため、懐に手を入れた。
しかし、そこに目当ての物は入っていなかった。
 もしやと思い、頭に手をやると簪があった。

 夢ではない。亡き夫が手ずから、自分のために届けてくれた。
逢いに来てくれた。

 そう実感した美佳は決意を新たに、仏壇の位牌に向い祈った。
 道中で仕事に精を出しているであろう嫁の健康を気遣い、それを見守る息子を案じた。
そして、その夫婦に近いうちやってくるであろう災いが、最悪な事態をもたらさない様、先祖に祈った。
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