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「雪割草シリーズ」
雪柳

〈01〉 クロの悪戯

 ←雪柳 あらすじ →〈02〉 にんげん?
「まったく、若い者はこれだからいかん!」

 天下の黄門さまこと徳川光圀は茶を飲み干し、音を立てて湯呑を置いた。
茶店のほかの客は、ちらちらその様子を見ていた。
 旅装の老人が一人、目立つに決まっている。

今は旅先からの帰路。江戸へと向かっていた。
 しかし光圀は今、供の目をくらませ一人茶屋に居た。
今頃供の者は、ひとつ前の宿場のはずだった。
 
 じきに師走。寒い道中に、皆のはやく国に帰りたい気持ちが募っていた。
そんな気分を温かい茶で和ませた光圀は懐から財布を取り出し、金を湯呑の隣に置いた。

「お代はここで良いかな?」

「はい。ありがとうございました」

 光圀は茶屋を後にし、一人江戸の方向へ足を向けた。
すべては腹心二人の不始末が黄門さまの一人歩きの原因だった。



 昨日の夕方のこと、御供二人は宿の部屋にいた。
一人は、机に向かい書き物を、一人は火鉢に当たり手を温めていた。
 しばらくすると、手を温めながらぼそっと男が言った。

『格さん…… あのさ……』

 その続きを待たず、書き物をする男はその手を止めずにピシっと言った。

『酒はダメだ。』

 すると、助さんこと佐々木助三郎は怯まなかった。
しかし、何か言いたげだった。

『違う。あのな…… その……』

 そんな彼に、格さんこと渥美格之進は視線を書き物から逸らすことなく聞いた。

『はっきり言えよ。お前らしくない。』

 すると、助三郎は顔を赤くして言った。

『……耳かきして欲しい。膝枕で。』

 そんな突拍子もない言葉に格之進は出納帳を書き損じた。
天を仰いだ後、黒い染みを作った紙を切り取り、筆拭きに使うべく綺麗に折りたたんだ。
 そして、初めて助三郎に目線をやって言った。

『……あのなぁ、俺に頼むなそんなこと。』

 呆れかえる格之進に向かい、助三郎は口調を少し変えて懇願した。

『じゃあ、戻ってくれないか? 早苗。』

 水戸藩士、渥美格之進は仮の姿。
実は助さん、佐々木助三郎の妻早苗。
 国元の水戸では普通の夫婦として過ごせる二人だったが、ほとんどが旅の空の二人は、かなり変わった関係だった。
 
 友達で、同僚で、夫婦。
互いにこの関係を楽しみ、満喫していた。
 たまに欲求不満もあったが……

 助三郎が少し待つと、目の前の男は消え小柄な女が現れた。
妻の早苗だった。

『……わかったわ。はい、どうぞ。』

『やった! 早苗だ!』

 長旅もそろそろ終わり。ずっと男同士で、助三郎は我慢の限界に近かった。
道中は即ち仕事。
日々緊張が抜けず、早苗は女で夜を迎えることが出来なかった。
 毎晩男同士。夫婦の睦事は皆無。
助三郎はそこまで欲望の強い男ではなかったが、若い男に我慢は毒。
 それは早苗にもあてはまっていた。
あまり躊躇せず、夫を呼んだ。

『早く寝て。仕事残ってるんだから。ご隠居さまに見つかったら怖いし。』


 しかし、ちょっとでは済まなかった。
ついつい、抱きしめ合い、いちゃいちゃしているところを光圀に見つかった。
 さすがの光圀も、夫婦の事に文句は言えず、激怒はせず少々の御説教をした。

  
 本当はこれで済むはずだった。
しかし、箍《たが》が外れかけた夫婦は、主の言葉を上の空で聞いていた。
そして、仕事で失敗をしでかした。 
 それが、光圀を激怒させ、一人宿を抜け出す結果となってしまった。






 光圀が茶屋で一服していた頃、早苗と助三郎は必死になって主を探していた。
一人は宿場の中。一人は一つ前の宿。
 しかし、成果は出なかった。

「やっぱり、居なかった」

 互いに報告し合った後、助三郎は早苗に聞いた。

「弥七はどうした?」

「次の宿に向かってもらった」

 早苗と助三郎より信頼されているといっても過言でない男。
それが弥七。忍び働きをする影の男。

「そうか。お銀、お前のほうはどうだった?」

 もう一人の供。くのいちのお銀。
彼女もまた信頼されている。しかし、その時、少しうつむき加減で言った。

「ダメだった。それにね、わたしの姿見ても、ご隠居さま怒るだろうし……」

「ん? 一体何やらかしたんだ?」

 助三郎が興味津々でお銀に窺うと彼女は呟いた。

「……昨日の晩、お湯掛けたの」

 お銀が湯をかけることは、覗きを阻止する意外の何物でもない。
とっさにそう判断した助三郎は彼女に聞いた。

「風呂を覗かれたのか?」

「だからね。助さんだと思って思いっきり掛けたの」

 その返事に、助三郎はカチンときた。

「……ちょっと待った。なんで俺なんだ?」

「だって、覗いた事あるでしょ?」

 その言葉に、助三郎は思いっきり取り乱した。
すぐ隣には、自分を睨む男がいた。
 彼は指をポキポキと鳴らし、脅しをかけていた。

「お前……」

 恐ろしい睨みと、声に助三郎は必死になって弁明した。

「嘘だ! 早苗のは見ようとした事あるが、お銀はない! 信じてくれ!」

 その言葉に、早苗は余計激高した。
自分の姿が男であることを忘れ、助三郎に怒鳴った。

「なに、俺の!?」

 どうにか魔の手から逃れようと、助三郎は喚いた。

「お前じゃないって! 早苗だって!」

 しかし、早苗はそんなことは聞いてはいなかった。

「どっちも一緒だ! スケベ野郎!」

「ワン!」

 夫婦喧嘩は犬も食わないというが、そこへ同行者の一匹、真っ黒い犬のクロが現れた。
口にはどこから拾ってきたのか、棒きれが。
 尻尾を振って、飼い主二人を見上げた。

 その様子に、早苗は妙な夫婦喧嘩を止めてクロを諭した。

「クロ、それどころじゃない。御隠居捜さないといけないんだ。またな」

「クゥン……」

 悲しそうにピンと元気よく立っていた耳が垂れた。
その何とも悲しげな様子に、助三郎はクロの頭をなで呟いた。

「わかってくれ。……って言っても犬にはわからないか」





 それから一同は、光圀捜しに躍起になった。
宿にはクロ一匹。生類憐みの令のおかげか、クロはその宿の部屋に泊まることが出来た。
 つまらないクロは、部屋の中に残されたもので一人遊びを試みたが、ろくなものがない。
飼い主二人に構ってもらいたいクロは、悪戯を試みた。

 まず手始めに、今まで絶対に手を出したことのない早苗の振り分け行李を抉じ開けた。
いつも彼女が書き物をしている日誌と帳簿には見覚えがあったので触れず、油紙に包んだ見たことのない物を咥えて、取り出した。
 それを鼻で開けると中に有ったのは、どこかでかいだ匂いと同じ香りがする粒。それを一粒丸飲みした。
 そして荷物はそのままにして、宿の外へ散歩に出かけた。


 その日の夕方、何の収穫もなかった早苗と助三郎は宿に戻ってきた。
早苗は部屋に入るなり、悪戯に気付いた。
 しかし、それをクロの仕業とは思わなかった。

「……この宿ネズミがいるのかな?」

「どうした?なにかかじられたか?」

「……秘薬が一粒足りない。三粒入ってたのに。解毒剤は無事だ」

 クロが食べたのは、秘薬。
早苗に格之進に変わる力を与え、助三郎を美帆に、千鶴を千之助に変えたあの秘薬だった。

 早苗が首を傾げている傍で、助三郎は冗談を言い出した。

「ネズミの家族、雄同士か雌同士になったら数が減るな。ハハハ」

 その言葉に、早苗も笑った。

「だな。良い退治方法だ。殺さなくても済む」

 しかし、突然助三郎は笑うのを止め、真剣な眼差しで聞いた。

「……だが、なんだってそんな厄介な物持ってる?」

 その言葉に、早苗は明らかに動揺した。

「へっ? まぁ、念のためだ。念のため。俺の変身能力落ちないためだ」

「ふぅん」

 それは嘘だった。
助三郎がおバカなことをしでかしたら、仕置きのために女の美帆に変えるつもりだった。
 かわいい美帆に逢え、互いの欲求不満も解消。光圀の機嫌も直る。
 そのため携帯していた。

 しかし、そんなことが知られたら助三郎は猛烈に怒る。
早苗はすぐに話題を逸らせた。

「で、どうする? ご隠居早く捜さないと。この寒さだ」

「そうだな。でも、もう夕方だ。まだ戻ってない弥七に託そう」

「あぁ。……そういえば、クロはどこ行った? クロ?」

 早苗が呼ぶと、クロが現れた。
しかし、なぜか足をふらつかせ、くしゃみをした。

「おい、大丈夫か?」

「なんか調子悪そうだ。風邪ひいたかな?」

 そう言って夫婦二人はクロを囲み、様子を診た。
 悪戯は失敗したが、違うことで構ってもらえ、嬉しくなったクロは尻尾を降った。
しかし、いつもと違い弱々しかった。
 
 そこへ、天井から声がした。

「助さん」

 弥七だった。
大抵屋根裏からしか入ってこない。

「あ、弥七。どうだった?」

 彼の報告が良い物であることを、夫婦は願った。

「……ご隠居、一つ向こうの宿場に居たには居たんですがね、助さんたちの所には帰らん、一人で江戸まで帰ると言うこと聞かないんで」

 光圀の所在確認だけでも二人にはありがたかった。
もしも、行方不明などとなったら、二人は切腹間違い無し。
 ほっと胸をなでおろした助三郎は、弥七に言った。

「……仕方ない。明日朝一で謝りに行く」

「……わかりました。ですが、ご隠居には言わない方が、良いでしょう?」

 にやりと弥七が笑った。

「……あぁ。逃げられたら困る」

 そう助三郎もにやりと返した。

「……では、これで失礼しますぜ」

 そう言って、弥七は去って行った。
絶対に同じ宿には泊まらない。
 彼を見送った後、助三郎は再びクロに向き、笑顔で告げた。

「さて、お薬飲もうな」

「キャン!」

「わかるのか? まぁいい。格さん、薬だ」

 クロに苦い薬が待っていた。
しかし、風邪には効かなかった。
 
 なぜなら、クロは風邪をひいたわけではなかったからだ。
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