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「雪割草シリーズ」
雪柳

〈02〉 にんげん?

 ←〈01〉 クロの悪戯 →〈03〉 夢の親子
犬の朝は早い。
早苗と助三郎に挟まれて眠ったクロは一番に目覚めた。

 大きく伸びをした後、用を足すために部屋を出た。
仔犬のころに、さまざまなしつけを早苗や弥七から受けていたクロは、行儀よく外に出た。
 宿屋の庭の隅にちょうどいい草むらがあったので、そこで用を足していると、突然声が掛った。

「坊や、そこで何をしてるんだね? 裸足じゃないか。寒くないのかい?」

 クロは驚いて振り向いた。
声の主は、宿屋の主だった。
 昨日、部屋に挨拶に来た彼は『可愛いお犬様だ。』と優しくクロを撫でていた。

 クロは思ったことをそのまま声に出した。

「おじちゃん。早いね」

「そうかい? 坊やも早いねぇ。だが、お前さんみたいな子、泊まってたかねぇ?」

 会話が成立したことに、クロは驚いた。
いつも『なんだ?』と解ってもらえず、笑われるのが落ち。

「……犬の言葉わかるの?」

「犬? 残念ながら犬の言葉はわからないねぇ」

 宿屋の主人に笑われたが、クロは彼に問い詰めた。

「でも、クロの言ってること、わかるんでしょ?」

「もちろん。男の子の言うことはしっかりわかるよ」

 クロは耳を疑った。

「……男の子?」

「坊やは、男の子だろう? 女の子には見えないからねぇ」

 『犬』『お犬様』としか呼ばれたことが無い。
飼い主からは『クロ』。
 不思議な感覚にとらわれたクロは、呟いた。

「……にんげん?」

 すると、男は少し引きつった笑みを浮かべて言った。

「そんなこと言って、まさか、妖《あやかし》かい?」

「ううん。クロは犬だよ。ほら、尻尾が…… あれ? ない!」

 自慢の尻尾が無いことに気付いたクロは必死にそれを探した。
しかし、どこかに落ちているわけでもない。
 くるくる回るクロを見て男は笑った。

「寝ぼけたのかな? さぁ、まだ早いからもう一寝入りしてきなさい。お母さんが心配するよ」

 そう言って自身も欠伸をしながら去った。
一人残されたクロは立ち尽した。
 
 はっと我に返り、自分の姿を確認し始めた。
 尻尾は無くなっていた。その代わりなのか、頭にはそれと同じ長さ程で結って垂れる髪の束があった。ぴんと立っていた耳も、良く効く鼻も人間の物に。
 手も足も人間に変わり、二本足で立っていた。
 真黒の毛皮は、同じ色の着物に変わっていた。
 
「クロ、にんげん?」

 そう声に出したが、違和感は全くない。
いつも飼い主に向かって必死に語りかけている時と一緒だった。
 いつも理解してもらえなかった言葉が、今は理解してもらえる。
頭の中でそう整理したクロは、とっさに思いついた。

「そうだ!」

 クロは、走って宿の部屋に戻った。



「助さん! 起きて!」
 
 クロは、走ってきた勢いで助三郎に飛び乗った。
彼は未だ布団の中だった。

「ぐへ!」

 みっともないうめき声をあげた助三郎だったが、すばやく枕元の脇差をつかみ、次の瞬間構えていた。
 さすがは水戸随一の剣豪。

「曲者! どこだ!?」

 怒声をあげる主人に、クロは手を振ってぴょんぴょん跳んで呼びかけた。

「クロだよ! くせものじゃないよ!」

「は?」

 助三郎は眼の前の見知らぬ男の子に、驚き眼を皿のようにしていた。
わけがわからなくなった彼は、隣の妻を起こそうとした。
 朝早すぎて、いつも早起きの早苗も起きてはいなかった。

「……早苗、起きろ。大変だ」

 しかし、布団の中からは眠そうな声しか聞こえてこなかった。
それを見たクロは元気よく言った。

「クロがおこしてあげる!」

 そしてさっきと同じように、布団の膨らみの上に飛び乗った。
すると、同様のうめき声と共に、怒鳴る男の声が部屋に響いた。

「誰だ! 痛いだろ! 腹の上に乗るな!」

 起きてきたのは、早苗ではなく格之進だった。

「あ、格さんだったか……」

 道中ではお供二人は寝ている間も護衛の仕事。
そのため必ず男の姿で早苗は眠った。
それ故、昨晩のような光圀不在で気を張る必要が無くとも、癖で寝ている間に男に変わる事が多かった。
 早苗は男のまま、眉間にしわを寄せ、不快感を露わにした。

「男でよかった。女だったらあばら折れてるぞ……」

 すると、クロはしゅんと萎れ、悲しそうな声で言った。

「ごめんなさい。クロそんなに重かった?」

 寝起きすぐという状況と、見知らぬ男の子の存在に、早苗は頭が混乱していたが、優しく声をかけた。

「坊や、クロって言ってるが、うちの黒い犬を見なかった? ここに寝てたはずなんだけど」

 すると、クロは必死に訴えた。

「クロはここだよ! にんげんになったの!」

「は?」


 早苗と助三郎は二人でしばらくぽかんとしていたが、助三郎が先に立ち直り、こう聞いた。

「格さん、昨日秘薬がどうのこうの言ってなかったか?」

「あぁ。一粒足りなかった。だが、この子男の子だろ? 違うんじゃないか?」

 秘薬には、性を反転させる力しかないはず。
そう信じる早苗は、眼の前の男の子が犬のクロだとは思えなかった。
 一方の助三郎は念のためと、男の子に尋問し始めた。

「なぁ、坊や、昨日格さんの荷物に悪戯したか?」

「……うん。ごめんなさい」

「その時、何か食べたか?」

「うん。変わった匂いのするまずいやつ食べた」

「まずいってどんな味だった?」

「甘かったかな? 苦かったかも。よくわからないけどまずかった!」

 その言葉に助三郎と早苗は確信が持てた。
秘薬は苦いような甘いような妙な味。
 経験者二人は、秘薬のその味をよく覚えていた。

「……本物だ。この子はクロだ」



 男の子をクロだと認知した二人は、不思議がってクロを質問攻めにした。
そのたび、クロは元気よく答えた。

「名前は言えるか?」

「うん。クロだよ!」

「歳は?」

「たぶん二歳!」

 二人の元に来た時は仔犬だった。
結婚前の事だから、年齢はそれで正解だった。
 今の見た目は、五歳くらいの男の子だったが。

 どうしても聞きたい質問が二人にはあった。

「飼い主の名前は?」

「助さんと早苗さん。あと格さん」

 その言葉に早苗は驚いた。
飼い犬が、男の姿の自分を認知していることに。
 しかし、別々として捉えているのではとも思い、思い切って聞いてみた。

「……俺のもう一つの名前は?」

「早苗さん」

 早苗は再び驚いた。

「……解るのか?」

「早苗さんが変身して格さんになるの。今変身中」

 賢い飼い犬に、飼い主二人は喜んだ。
そして、質問を続けた。
  
「好きなものは?」

「骨と甘い卵焼き!」

 早苗が作る卵焼きはほんのりとした上品な甘さだが、助三郎のお手製は菓子のように甘い。
料理は上手くなった助三郎だが、未だ卵焼きだけは味付けがおかしい。

「じゃあ、嫌いなものは?」

「助さんの硬いおにぎり!」

「失礼な!」

 助三郎の握り飯は硬い。
クロはそれを食べずに地面に埋める。
 その光景を思い出した早苗はクスッと笑い、夫を慰めた。

「助さん。本当の事だ、諦めろ」

「そりゃないだろ……」


 可笑しな問答を繰り広げた後、二人と一匹は朝餉を囲んだ。
しかし、クロは食べようとした矢先、早苗に叱られた。

「クロ、手掴みはダメよ!」

「……口付けてもダメ?」

 元犬にいきなり箸を使って食べろでは無理がある。
そこで早苗は思いついた。

「そうね。お箸の使い方教えてあげる。おいで」

 そう言って早苗はクロを膝に座らせ、箸を握らせた。

「そう、そこを持って、そう。ほら持てた」

「こう?」

 クロは自慢げに助三郎に持った箸を見せた。
助三郎はそんなクロに微笑み返した。

「上手いぞ。筋が良い」

「じゃあ、そのお芋つまんでみて。出来る?」

 クロは難なく芋の煮たのをつまみあげた。
そして早苗に窺った。

「食べて良い?」

「どうぞ召し上がれ。良く噛むのよ」

 クロは芋を口に入れ、言われた通りよく噛んだ。
甘い芋の味を堪能した後、ごくんと飲み込み、うれしそうに二人に言った。

「クロお芋食べれたよ! 見た?」

「あぁ。上手いぞ。その調子でどんどん食べろ」

「お茶碗の持ち方も教えてあげるわね。温かいお米は美味しいわよ」

「うん!」


 若い夫婦と、その子ども。
そんな仲の良い家族の食事風景がそこにはあった。
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