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 ←〈02〉 にんげん? →〈04〉 クロの手柄
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「雪割草シリーズ」
雪柳

〈03〉 夢の親子

 ←〈02〉 にんげん? →〈04〉 クロの手柄
餉を取った三人は、温かい茶で一息ついていた。
そこへ突然、何かが風を切って飛んできた。
 早苗はとっさにそれを掴んだ。
手を開いてみると、簪だった。
 早苗も一応、簪飛ばしは習得していた。その師匠は、お銀。

 すると、天井裏から面白がる声がした。

「さすが格さん」

 簪の持ち主はやはりお銀だった。
 しかし、当の早苗はせっかくの団欒が邪魔され、身の危険にさらされて不機嫌だった。

「ふざけるな! 刺さったらどうする気だ」

 悪びれていないお銀は、謝らなかった。
さらにひらりと天井裏から飛び降りたかと思うと、勝手に湯呑に茶を注いで飲んだ。

「そんなこと知らないわ。掴むからいけないのよ。わたしは壁に刺すつもりで投げたんだから。……あら?」

 お銀は、行儀よく座って自分を見るクロに気付いた。
そして、早苗と助三郎の顔を見比べた後、とんでもないことを口にした。

「坊や、あなたのお父さんはどっち?」

 そのとたん、二人は彼女に喰ってかかった。

「変なこと言うな!」

「俺は男じゃない!」

 その様子にくすりと笑って、お銀はクロの頭を撫でた。

「そうよね。どっちにも似てない。あなたのお名前は?」

 すると、助三郎がクロにこそっと何か耳打ちした。
そして、クロは元気よくお銀に返事をした。

「クロだよ! お銀おばちゃん!」

 『おばちゃん』という言葉にお銀の表情は凍りついた。

「ちょっと! おばちゃんって何!?」

「良くやったクロ。偉いぞ」

 『おばちゃん』は助三郎の差し金だった。
お銀は彼を睨みつけた後、クロの顔をじっと見て言った。

「あの黒犬のクロなの?」

「うん。いつもおやつありがとう」

 行儀の良いクロにお銀は笑みを浮かべた。
しかし、先ほどの呼び方の注意をした。

「どういたしまして。でもね、おばちゃんはやめてくれる?」

 クロは素直に従った。

「わかった! お銀さんだよね?」

「そうよ。偉いわねぇ。はいおやつ」

「やった! ありがとう!」

 助三郎の膝の上に座って、クロはお銀からもらった干し肉をかじった。


 一段落ついたとき、助三郎はお銀に窺った。

「お銀、何の用事だ?」

「ご隠居さまのところにそろそろ行こうかと思って」

 光圀は一つ向こうの宿場。
しかし、早く行かなければ再び一人で遠くに行ってしまうかもしれない。
 弥七が着いているから心配はなかったが、早く謝りに行くに越したことは無い。

「そうだったな。すぐに行こう。そうだ、早苗」

「なんだ?」

「……せっかくだ、戻って早苗で行ったらどうだ? 見られる前に格さんに変わればいい」
 
 光圀の眼の前でいちゃつけば怒られる。
鬼の居ぬ間の洗濯で、助三郎は早苗ともっと過ごしたかった。
 早苗も乗り気だったようで、すぐに良い返事が返ってきた。



 宿を後にし、クロを間に三人で手をつないで歩いた。

「あなた達、親子みたいね」

 少しからかうように後ろに付いて行くお銀が言った。
 
「そうか?」

 助三郎はうれしそうに早苗を見た。
早苗も、彼に微笑み返した。
 間のクロは、二人の幸せそうな顔に上機嫌だった。
しかし、少し不快を感じていた。

「……やっぱり二本足って不便だね」

「そうか?」

「うん。全然速く走れないの。これじゃ猫見つけても追っかけられないや」

 その言葉に、早苗は優しく釘を刺した。

「ダメよ、猫ちゃんいじめちゃ。可哀想でしょ?」

「はい。でも、向こうがちょっかい掛けたら仕返しする! こないだね、真っ黒っで汚いってけなされたの」

 助三郎はクロを抱き上げた。

「へぇ。猫がそんなこと言うんだ。イヤなやつだったな、そいつは」

「うん。でね、その猫色々混じってたから、ぐちゃぐちゃって笑ったら、引っ掻かれたの」

「で、お前はどうしたんだ?」

「思いっきり吠えて、追いかけて、木の上に追いやったの。そしたらその猫降りてこられなくなった。クロの勝ち!」

 自慢げに胸を張るクロを助三郎は肩車した。

「偉いぞ。男の子はそれくらい元気じゃないとな!」

「うん! クロは絶対泣いたり逃げたりしないよ!」

 二人の様子を見て早苗は猫虐めを忠告するのを止めた。
助三郎とクロは本当の親子に見えた。
 温かい幸せな気持ちを早苗は感じていた。


 そんなこんなで、昼前に光圀が居る宿場に到着した。
お腹がすいたので、茶店で一服してから光圀を探すことになった。
 彼が居るという宿へは、助三郎が代表して行くことになった。

 待っている間、小さいクロは茶店の娘たちに囲まれ可愛がられた。
遊んでもらって喜んで居たが、疲れてしまい、最後には早苗の膝枕で昼寝し始めた。
 その寝顔を娘たちは眺めた後、仕事に戻って行った。
茶店の一部屋は早苗とお銀、クロだけになった。

 クロの寝顔を見ながら早苗は呟いた。

「……可愛い」

 その言葉に、お銀はそっと口にした。

「自分の産んだ子だと、もっと可愛いのかしらね?」

「わたしの子か……」

 そう言った途端、早苗は心のどこかがギュッと絞られるような感じを覚えた。
感じたことがあった感覚だが、それは今までで一番大きかった。
 
 
「赤ちゃん、か……」

 既に佐々木家に嫁いで二年が経っていた。
しかし、一向に懐妊の兆しが無い。
 一年目はまだ余裕があった。早い家では一年で子が出来る。
まだ大丈夫と言い聞かせていた。
 しかし今では、同じ時期に結婚した友人や親戚にはほとんど子が出来ていた。
その状況で、早苗は焦りを感じていた。
 『三年子無きは去れ』という言葉があてはまる刻限が刻々と迫っている。
しかし、夫も姑も何も言わない。
 急かしもしない、『まだ出来ないのか』などと一切言わない。

 しかし、背後には厄介なうるさい親戚が居る。
必ずその親戚が、なにかを言ってくるに違いない。
 その不安をふっと感じるようになっていた。

 そしてさらに近頃、ある不安、ある恐怖の言葉が頭をもたげてきていた。
 それは、自分の存在意義を揺るがしかねない物。
 それは……

『不妊』

 もしもそれが当てはまれば、潔く佐々木家を去らなければいけない。
それは理解していた。
 武家に後継ぎは必須。養子という手もあるが、うるさい親戚はそんな手を打つはずがない。
必ず、早苗を追い出そうとするに違いなかった。

 そんな不安を感じながらも、早苗は自分と助三郎の子が欲しかった。
眼の前のクロを見て、その気持ちは余計に強くなった。
  
「赤ちゃん、欲しいな……」

 
 お銀はそんな早苗の様子に、成す術もなく、ただ見守った。





 その頃、助三郎は弥七に向かい今にも殴りかからんばかりの剣幕で、怒声を上げていた。

「一体何してたんだ!? お前はこんなヘマしでかす男じゃないはずだろう!?」

 今まで、助三郎は弥七に怒鳴ったことはほとんど無かった。
年上、経験も探索能力も自分より上。そんな彼を尊敬していた。
 しかし、そんなこと関係なくなるほど、助三郎は取り乱していた。
 それを理解している弥七も、反論することなく素直に謝った。

「本当に申し訳ねぇ。ほんの少し眼を離したすきに居なくなってたんで」

 すると、助三郎も自分の荒れように気付き、深呼吸して落着きを取り戻そうとした。

「……悪い。怒鳴っても仕方ない。元は俺が悪いんだ。すまなかった怒鳴って」

「いえ」

 そして、気持ちを切り替え主探しに集中することにした。

「一つ前の宿には居ないはずだ。ここまで来る途中見なかったからな。向こうの宿は?」

「先ほど行きましたが、そのような人は見なかったと……」

「どこに行かれたんだ? 無事であってほしいが……」

 不安な表情を浮かべる助三郎に弥七は指示を出した。

「とりあえず、助さんは早苗さんと一緒に、それとお銀にこの書付を渡してください。あっしはもう一度あっちの宿場を探します。では……」

 そう行って音もなく消えた。
弥七ほどの男が見つけられないとなると、助三郎、早苗、お銀には無理に近かった。
 強烈な焦燥感と、恐怖が助三郎を襲った。

「……やばい。……ご隠居が」

 助三郎は頭を抱えながら茶店に戻った。
光圀は厳しい主だが、同時に優しい。
 そんな主を助三郎は父親のように慕っていた。
それを自分の過失で失う。とてつもなく恐ろしかった。
 大事な人を失うかもしれないという怖さを、もう二度と味わいたくなかった。
 
 助三郎が経験した中で一番恐ろしかったのは、早苗を自殺未遂で失いそうになったあのことだった。
 それを再び思い出した助三郎の脳裏に、主を失うことでによって引き起こされるもう一つの恐怖が浮かびあがってきた。

 主光圀が命を落としたら、間違いなく助三郎は切腹。
 そのことは百も承知。自身の命を持って過失の責任を取ることに躊躇は無かった。
 問題は、同僚の命だった。
 『渥美格之進』にも助三郎と同じ責任が圧し掛かる。切腹は逃れられない。
 助三郎はその悲劇を回避する事で頭がいっぱいになった。

「早苗だけは助けないと……」



 青ざめた顔で帰ってきた助三郎を、昼寝で元気いっぱいになったクロが出迎えた。
可愛い無邪気な様子に心が温かくなった助三郎だったが、これからのことを思うと泣きたくなっていた。

 すると、クロは茶屋の奥から早苗を引っ張ってきた。
妻の何も知らない穏やかな顔を見た助三郎は本当に泣きたくなった。

「どうだった?」
 
 助三郎は早苗を強く抱きよせ、耳元で呟いた。

「お前だけは、絶対に守るから。俺が全部背負うから……」

「……どうしたの?」


 助三郎は茶店の奥を借りて、早苗に事の次第を話した。
そして、帰り道に考えに考えた、最悪の事態の回避法を早苗に告げた。

「もしそうなったら、『渥美格之進』を解毒剤で消すんだ。そして逃げろ。逃げて生き抜くんだ」

 すると早苗は取り乱し始めた。

「イヤ! そんなことになったら、わたしも男として死ぬ! 残してかないで! 一人にしないで!」

 涙を浮かべ縋りつく妻を助三郎は説得し続けた。

「そんなこと言うな! 俺はお前に生きていてもらいたい。無駄死にして欲しくない。これは俺の責任だ。お前の責任じゃない」

「イヤ! 聞かない! 絶対聞かない! 助三郎さまが死ぬならわたしも死ぬ!」

「頼む。わかってくれ…… 頼むから……」


 二人の尋常ではない様子に、クロは何が起こっているのか、戻ってきた弥七に聞いた。
弥七は手ぶらだった。
 光圀の消息は不明のまま。
そこに弥七の指示で動いていたお銀も戻ってきたが、不作だった。

「弥七さん。二人はなんで泣いてるの? クロ、泣いてる顔と声、大っ嫌い」

「坊主、どこの子だ?」

 弥七は人型のクロがわからなかった。

「弥七さん。犬のクロよ」

 いつも落ち着いている弥七は、すんなりと受け入れた。

「そうかい。じゃあ、俺の話ちゃんと理解できるな?」

「うん」

「ご隠居が居ないんだ。探しだして連れ戻さないと、二人は離ればなれになる……」

 その言葉に、クロの顔は引き攣った。

「……一緒に居られなくなるの?」

「そうだな」


 
 クロは怖くて堪らないものを持っていた。
それは飼い主二人と一緒に居られなくなること。
 早苗が精神を病んだ時、早苗は助三郎と疎遠になった。
そんな飼い主二人をどうにか戻そうと必死になったクロだったが、力及ばずで弥七に預けられた。
 不安の毎日を、弥七は様々な訓練で紛らわせてくれた。
 そのおかげで、様々なことが出来るようになり『賢い犬』と呼んでもらえる。
 飼い主二人に可愛がって貰える。

 その大好きな二人に危機が迫っている。この突然の出来事に、クロは恐怖を感じた。
しかし、傍観して助けを待つのではなく、自ら行動を起こすことを決意した。

「クロがおじいちゃん捜してくる!」

「え!? クロ、ちょっと! どこ行くの!?」

 突然茶店を飛び出したクロに驚いた弥七とお銀だったが、すぐさま止めに入った。

「おい、待て! どこに居るのか解るのか?」

 するとクロは強い眼差しで弥七に言った。

「クロは犬だよ。匂いでおじいちゃん探すの。弥七さん教えてくれたでしょ? 匂いを嗅ぎ分けて欲しいもの探す方法」

「そういえば訓練してやったな」

「だから、絶対探し出す! 弥七さん付いてきて!」

「わかった。頼むぞ、クロ!」

 すぐさまクロに付いて行こうとした弥七に、お銀が声をかけた。

「弥七さん、わたしは?」

「二人を見張っててくれ。心中なんかしないと思うが、念のためだ!」

「わかった!」


 忍びと犬が、若い夫婦を守るため、光圀捜索を開始した。
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