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 ←〈04〉 クロの手柄 →〈最終話〉 クロの使命
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「雪割草シリーズ」
雪柳

〈05〉 雪景色

 ←〈04〉 クロの手柄 →〈最終話〉 クロの使命
「わーい!」

 そう歓声を上げて勢いよく飛び出そうとしたクロを助三郎がひょいと抱き上げた。

「あれ? どうしたの?」

 突然抱き上げられたクロは不思議がって助三郎に聞いた。
彼はクロに言った。

「裸足はダメだ。早苗、草履あるか?」

「はい。霜焼け出来たらイヤでしょう?」

 早苗は彼の目の前に草履を置いた。
助三郎が履かせようとクロを地面に下ろすや否や、彼は裸足で飛び出した。

「要らないよ! クロは犬だから!」

「あ! 待て!」

 裸足で走りまわるクロを助三郎は追いかけ、頭から雪をたくさんかけた。
 冷たい雪を頭からかぶったクロはあまりの冷たさに叫んだ。

「やっぱり冷たい! 早苗さん助けて!」

 早苗の元に一目散に走り、彼女の影に隠れた。
そんなクロの様子に笑みを浮かべ、早苗は雪を手にして言った。

「かわいそうに。クロの敵をとってあげるわね。それ!」

 固めた雪は助三郎彼の首に当たり、着物の中に入った。

「冷てぇ! やったな!?」

 そういうと助三郎は大きな手で雪を丸め始めた。
その様子を見た早苗はクロに向かって言った。

「助さんが怒ったわよ! 逃げなさい!」

「うん!」

「クロ、待て! 早苗、お前も容赦しないぞ!」

 そうして三人でワイワイ騒いで雪遊びに興じた。



 その様子を、光圀が茶を啜りながら、お銀と眺めていた。
未だ体調は万全ではなかったが、起き上がることはできる。
 寝ているよりも心が和むと言って、縁側に温かい格好で座っていた。

「……本当の親子みたいじゃの」

「はい」

 犬と夫婦の騒ぐ声を聞きながら、茶を再び啜った光圀にお銀が低く言った。

「早苗さん、近頃悩んでますね……」

「そうか……」

 光圀も薄々、早苗が子が出来ないことを悩んでいる事実に気付いていた。
何かしら手を打ってやりたいと思ってはいたが、夫婦の繊細な問題に首を突っ込むものではないと、そっとしていた。

 お銀は光圀に言った。

「クロをあのまま人間にしておくなんて言いかねませんね、あの様子じゃ」

「そうかの?」

「……二人してすごく可愛がってますから」

 そう言われ再び光圀は彼らを見やった。
すると、追いかけっこに早苗が負け、助三郎に捕まる様子。
それをクロが助けようと跳ねまわっている様子が眼に入った。
 三人とも幸せそうな笑顔だった。


「早く、子ができると良いがの……」

「そうですね……」


 そう言った後、ふと光圀は走り回るクロを見て、あることを思いついた。




 一方、雪合戦と追いかけっこに飽きた三人は大人しい雪遊びに変更した。
早苗は丸く雪を固め、採ってきた南天の実と葉をそれにつけた。

「ほら。雪うさぎ。可愛いでしょ?」

 クロに出来上がったうさぎを見せた。
すると彼は喜んだ。

「クロの友達にそっくり! かわいい!」

 その言葉に早苗はほほ笑んだ。

「うさぎのお友達?」

「うん。会った時は茶色かったの。でもね、冬になると白くなるんだって」

「へぇ。そうなの」

「今こんな風になってるのかな?」

「そうかもしれないわね」

 犬の話に、早苗は聞き入った。
大好きな動物の話。もっと聞きたいと思っていた。
 すると、クロはうさぎの話を続けた。

「そういえば、そのこね、お肉食べないの」

「そう……ね」

 うさぎは草食。肉は食べない。
それは人間なら当たり前に持っている知識。
 しかし、犬のクロには不思議だったらしい。

「一緒に遊んだ時、お銀さんの干し肉あげたら要らないって言われたの。でもねそのこ、クロに甘い木の実くれたの」

 動物同士の贈物交換の話に、早苗は笑みがこぼれた。
光景が頭に浮かび、ほほえましく思った。

「良かったわね」

「うん。だからお礼に、お百姓のおじさんにもらった大根持ってったら、喜んでくれた」

 意外な展開に早苗は驚いたが、面白い話を引き続き聞くことにした。

「美味しかったって?」

「うん。大きかったから兄弟と食べたって」

 うさぎの兄弟が大根をかじる光景を想像した早苗は楽しくてたまらなくなった。
そしてクロに聞いた。

「クロはいっぱいお友達居るの?」

「うん。オオカミに、キツネもタヌキも! 鹿とネズミも友達だよ! また逢いたいな」

「きっと逢えるわ」


 すると、少し離れた場所で一人黙々と何かを作っていた助三郎が声を上げた。

「出来たぞ! どうだ?」

 彼は妙な形の雪の塊の脇に立っていた。
丸っこくてところどころ飛び出たり引っ込んだりしている物だった。
 早苗は彼にそれは一体何なのかを聞いた。

「……なに作ったの?」

 助三郎は自信満々な顔で言った。

「当ててみろ」

 しかし、妙すぎて早苗にはわからなかった。
適当に浮かんだ物を言った。

「えっと…… 大仏さま?」

「違うな。生き物だ」

 今度はクロが答えた。

「わかった、サル!」


 二人の答えに助三郎はがっくりきた様子だった。
そして正解を言った。

「犬だ……」

「へ? 犬なの!?」
 
 早苗はまさかの答えに驚いた。
あまりにかけはなれた異形な姿に、それ以上何かを言う気力が失せた。
 しかし、クロは雪の塊をつついて言った。

「助さん尻尾がないよ。あと、耳がない!」

「しまった……」

 さらにがっくりする彼に、気を取り直した早苗はぼそりと言った。

「助三郎さまって、そういうのダメだったのね……」

「ダメじゃない。俺は彫刻とか造形が苦手かもしれん」

 認めようとしない夫に呆れ、早苗は笑いだした。
すると、助三郎もそれにつられ笑い始め、クロも一緒に笑った。
 三人で笑い、楽しい時間が過ぎて行った。




 昼になり、そろそろ部屋に戻ろうとした時、早苗は身体が冷え切っていることに気付き、ある良いことを思いついた。

「そうだ。クロ、一緒にお風呂入りましょ。暖かいわよ」

 しかし、言うや否やクロの顔が強張った。
そして助三郎の足にしがみついた。

「イヤ! お風呂怖い!」

 クロは風呂が嫌いだった。
冷たい水で身体をこすられ、耳や眼に水が入る。
 それが怖くてたまらなかった。

 しかし、早苗はクロを暖めてやりたい一心で説得し始めた。

「水風呂じゃないわ。お湯で温かいから」

 助三郎も足につかまっているクロに言った。

「そうだ。それに風呂は面白いぞ、中でぷかぷか浮ける。しかも、温泉で広いから泳げるぞ」

 この言葉に、クロの心は動いた。
風呂は嫌いだったが、泳ぐのは嫌いではなかった。

「……ほんと?」 

「あぁ。だから風呂に入ろう。な?」

 すると、クロは少し考えた後助三郎に言った。

「……じゃあ、三人で入りたい! 助さんと、早苗さんと!」

 この突然の言葉に、二人は驚いた。

「え?」

「でないとクロはお風呂はいらないよ!」

 そう言ってどこかへ走って行った。

 残された夫婦には沈黙が流れた。
一緒に風呂になどめったに入れない。
家は狭くて窮屈。普通の道中は男同士。
 今は大きな風呂でゆったり夫婦で入れる。
 絶好の機会だった。

 助三郎はそっと早苗に伺った。

「……一緒に、入るか?」

 すると、小さな声で返事が返ってきた。

「……うん」

 
 クロは早苗と助三郎とともに広い温泉に浸かった。
中で思いっきり泳ぎ、身体の芯まで暖め、綺麗な着物に着替えた。
 助三郎はクロに感想を聞いた。

「風呂はどうだった?」 

「気持ち良かった! 暖かかったしね!」

「良かったな。また入ろうな」

「うん!」



 その日夕餉、クロは二人の間に行儀よく座り、残さず綺麗に箸で平らげた。
その様子を夫婦だけでなく光圀もお銀も眺め、楽しい一時になった。
 しかし、三人が別室で床につこうとした時、光圀からお呼びがかかった。
呼び出しは配下二人のどちらでもなく、クロだった。
 二人だけになると、光圀はクロに向かって言った。

「クロ。お前さんに頼みごとがある」

「なに?」

「お前さんにしかできない事じゃ。良く聞きなさい」


 クロと光圀はある約束を交わした。
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