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「雪割草シリーズ」
凌霄花

 〈04〉 慣れとは

 ← 〈03〉 思惑 → 〈05〉 闘い
早苗が水戸から帰ってきて数日後の朝早く、助三郎は町人姿で歩いていた。
ばしゃっと盛大な音を立てた後、彼は悪態をついた。

「だから雨は嫌いなんだよ……」

 うっかり水溜りに足を突っ込み、ずぶぬれ。
足袋に雨水が染込み、彼は不快感をあらわにした。
 しかし彼は歩き続けた。待ち合わせに、遅れてしまう。
 
 いくつかの大きな水溜りを避けながら、ようやく待ち合わせの場所に到着した。
しょっぱりを戻し、塗れた足を拭こうとすると、隣に待ち合わせの相手が立っていた。

「水溜りにはまったんですか?」

「あ、新助。待ったか?」

 助三郎は手早く足を拭うと、手ぬぐいを懐に入れ、彼に笑いかけた。
 
「いいえ。さっき来たばかりです。そうだ。こちらが今回お世話になる親方です」

 彼の隣には恰幅の良い中年の男がいた。
半被を身に纏い、鉢巻を締めた姿は典型的な職人だった。
 助三郎は新助の伝で、彼に接触することができた。
これも、密命のひとつ。

「おう。兄ちゃん、よろしくな。人手が足りなくってよ。たのむぜ」

 親方は二人を引きつれ歩き出した。
 彼は庭師。ある屋敷に出入りができる。それが彼に近づきたい理由だった。
 
「新助。大丈夫だよな?」

「はい。仕事さえちゃんとすれば何も言わない人なんで」

 二人は庭師として、屋敷に潜入することができた。
 
 
 
 
 
 屋敷の大きな庭の木を切りながら、彼は屋敷に眼をやった。
庭に面する座敷では、運よく顔が知りたいもう一人の人物がやってきていた。
 この好機を逃すまいと、彼は黙々と剪定をする不利をしながら、必死に眼を凝らした。
 

「そこを、何とか……」

 白髪の老人が、彼よりも若い男に頭を下げていた。
しかし、その男は不満げな顔。

「そう申されましても…… 吉良殿、貴方の知識と経験が必要なのですよ」

「このような老人、もはや何の役にも立ちませぬ。隠居の願い、聞き届けてはくれませぬか?」

 吉良上野介義央。
彼は権勢を振るう側用人、柳沢吉保の屋敷に来て彼に言上していた。


「どうしても、隠居と申されますか?」

 手に持った扇子を弄りながら、吉保は溜息をついた。
 
「はい……」

 上野介は深々と頭を下げる。
彼に見えないのをいいことに、さも見下げたような表情を浮かべた後、彼は言った。
 
「再び、上様にお伺いしておきましょう」

 感情がまったくこもってない一言だったが、吉良は手放しで喜んだ。

「ありがとうございます! お願い申し上げます!」





「……助さん、どうです?」

 下で伐った木々の片づけをしていた新助が助三郎にこそっと聞いた。
 
「……吉良様と柳沢様、しかと見た」

 そういう助三郎の眼は吉保を睨んでいた。
彼の思う事件の原因。それは吉良の浅野虐めではなく、柳沢吉保。
 彼が一方的な沙汰を下したことで、浅野巧みの紙は切腹、自分は妻とともに密命をこなす日々。
安穏な日々は到底やっては来ない。
 彼を心配して、新助は声をかけた。

「……姿だけで良いんで?」

「……あぁ。内容は、そのうち弥七が持ってくる」

 その時、親方から怒鳴り声が上がった。
男二人の作業をする手はいつしか止まっていた。

「ぼんやりしてんじゃねぇぞ! 手動かせ! 手!」

「はい!」

 驚いた二人は仕事に戻った。





 彼から見えない場所、聞こえない場所で先ほどの二人はそれぞれ言いたいことを言っていた。
上野介が退出した座敷では、吉保がにやりと笑った。
 傍には、影で使う忍びが控えていた。
 
「……なにが隠居だ。 させてもいいが、そうやすやすと許す俺と思ってるのか?」

 そして彼は目の前においてある、『贈り物』に手を触れた。

「本当にいい鴨だ」

 彼のところには多くの人がやってくる。
皆己の願いをかなえるため、吉保に贈り物をし袖の下を渡した。
 彼はそれを快く受け取り、時に願いをかなえてやり、時に無碍に斬り捨てた。

 上野介はいい鴨だった。
しばしば彼を訪ね、隠居願いをし、そのたびにお礼を置いていく。
 
「そういえば、あの爺の屋敷はどこだったか?」

 彼は忍びの者に聞いた。

「はっ。呉服橋門内(*1)にございます」

「では、そろそろ、退いてもらおうか」

 扇子をぱちんと閉じ、彼はにやりとした。
すべては自分の手の内にあるといわんばかりに……




 一方、吉良は……
 
「成り上がりの若造になぜ媚びへつらわんといかん?」

 苦虫を噛み潰した顔で彼は不満タラタラ。

「しかし、早く隠居の許可を貰わねばならん。一刻も早く……」
 
 イライラを深呼吸で一旦収め、彼は帰宅した。

 なぜ彼が隠居をしたいのか?
 それは、周囲の眼から逃げたいが為。
 彼はあの事件で傷を負いはしたが命を取り留めた。しかし、評判はガタ落ち。
 無理もなかった。
 喧嘩両成敗にもかかわらず、彼だけは何のお咎めもなかったばかりか、褒美までもらっていた。
 さらに、過去に勅旨饗応役を経験し、彼に教えを請うた際、イヤミを言われたり苛められた皆が影で悪口を言っていた。
 
 肩身の狭い思いをする彼だったが、己の今までの言動を改めることなどはしない。

「これもなにも、あれのせいだ……」

 彼は己の額に手をやり、傷に触れた。
その傷をつけた本人を恨んでいた。

「田舎侍が……」
 
 しかし、彼は心の隅で、その田舎侍が遺した物を恐れた。
 残された赤穂の浪人たち。そしてその者たちの『復讐』だった。




「……ということは、助三郎さまはみんな顔解るってことになるの?」

 早苗は畳みにうつ伏せになっている夫の腰を揉みながら聞いた。

「まぁな……」

 彼らがどういう人間なのか、彼女は興味を抱いた。

「……吉良さまは意地悪そうな顔してた?」

「いや、思ったより貧相な爺さ…… あぅ!」

 気持ち良さそうに眼を瞑っていた助三郎が突然うめき声を上げた。
はっとした早苗は手を止めて夫の顔を覗き込んだ。

「ごめんなさい。大丈夫?」

 助三郎は笑って妻を安心させた。

「いや、さっきのは効いた……」

 すると隣の部屋からもっと惨めな男のうめき声が上がった。
それを叱咤する声も。

「もう、慣れない事するから!」

「お孝ちゃん、痛いんだって……」

 新助の家で、男二人はへたっていた。
その日一日こなした庭師の仕事で、彼らは足やら腰やらをやられた。
 それを互いの相手に、治療してもらっている真っ最中。

「だったら、お灸にする? それとも鍼?」

 お孝は若干呆れ顔でそう聞いた。
すると、新助は俯いた。

「……どっちもいやだ」

 助三郎は彼を笑った。
彼のほうが日ごろ鍛えているので、被害も少なかった。

「新助、泣きごといってないで全部やってもらえ! あ、早苗。悪いがもう少し強く出来るか?」

「わかった。ちょっと待ってて」




 いつしか助三郎は気分が良くなり、眠くなり始めた。  
妻の腕は、それくらい彼を心地よくさせていた。

「気持ちいいな……」

 しかし、耳に入った声で目が覚めた。

「……効いてるみたいだな」

 それは少し遠慮がちな男の声だった。

「……格さん?」

 しかし、彼はそのまま彼女に身を任せていた。
申し訳なさそうに、男の声は言った。

「……この姿のほうが力が入るから、我慢してくれ」

 助三郎は彼女を攻めず、褒めた。

「……本当上手いな。そうえば、御老公も好きだったしな、お前の肩揉み」

「そうだったな……」

 夫の背中を揉みながら、会話を先ほど話していた内容に戻した。

「そういえば、さっきの二人は何を話してたんだ?」

「……わからない」

「顔を見に行っただけか?」

「……まぁな。人相だけは、百聞は一見にしかずだ」

「そうかもな。……だが、なんで吉良様がわざわざ柳沢様の屋敷に行ったんだろ?」

 助三郎が彼の考えを述べる前に、正しい情報がもたらされた。

「……隠居の申し出でさぁ」

「あ、弥七」

 彼はどこからともなく現れ、助三郎と新助を見てにやりと笑った。

「お二人さんが枝伐りしてる間に、ちゃんと聞きましたんでね」

 助三郎は素直に彼を誉めた。

「ほら、さすがは弥七。俺らが得たのは二人の顔と、腰痛だな」

 すると早苗は笑顔で

「腰痛は余分だ。助さん」

 背中のつぼをグッと押した。

「うっ。効く……」

 苦悶の表情を浮かべ、彼は口を閉ざした。
その彼をチラッと見やり、弥七は苦笑した。

「確かに、潜入方法をちっとばかし間違えたな……」

 早苗は寝ている夫を起こして座らせ、肩を揉みはじめた。

「弥七、隠居って事は、吉良様は羽州(*2)に引っ込む気なのか?」

「その通り。息子の所へね」

 出羽の国(*3)、米沢藩藩主上杉綱憲(*4)は上野介の実子。

「米沢は遠いな……」

「へい。あそこに引っ込んじまったら、赤穂の連中の復讐は難しくなる」

 そうなれば、水戸藩の二人の密命も困難を極める。
助三郎は忌々しげに、握りこぶしを作っていた。

「で、それに対する柳沢様の思惑は?」

 早苗はそう質問し、助三郎は真剣な表情で弥七に目線をやった。

「隠居の許可を出す気はさらさらなさそうですがね、なにやら良くねぇこと考えてましたぜ」

「そうか……」

「しかし、あのお方はいったいどちらの味方なんだ?」

 早苗がそう聞くと、助三郎が忌々しげに吐き捨てた。

「どちらでもない。己の欲にのみ従ってるんだ」

「欲か……」

 自分にはそのような規模の大きな欲は無い。
そう思う彼女は、天下を治める男の壮大な欲望がどのような物か、計り知れなかった。
 そして、苛立つ夫を宥めるように肩を優しく揉み続けた。


「格さん、大分楽になった。ありがとう」

「そうか。だったらもう帰れるな?」

「あぁ。あ、その前に湿布貼ってくれないか?」

「わかった」

 湿布を準備し始めた早苗の横で彼は着物を脱ぎ、貼る場所を指示した。

「ここの腰の……」

 しかし、彼女の怒鳴り声でぎょっとなった。

「いきなり脱ぐな!」

 恐る恐る見やると、顔が赤い男が俯いていた。
 恥ずかしくなった彼は、食って掛かった。

「いい加減男の裸に耐性つけろよ! 何年格さんやってんだ!?」

 妻はその言葉にさらに顔を紅くし、さらに深く顔を伏せた。

「だって……」

 ここで助三郎ははっと気付き、彼女を攻めるのをやめた。

「すまん……」

 彼が彼女に『男の身体に慣れろ』などという強要は出来なかった。
彼女が男の裸を嫌がるのは、己のせいでもあったからだ。
 責任感と後悔をいまだに抱く彼は、着物を着込んだ。
 そして身なりを整え、立ち上がった。

「……湿布は?」

 ようやく顔を上げた彼女は、そう聞いた。

「いい。自分で貼れる」
 
 早苗は女に戻り、頭を下げて誤った。

「……ごめんなさい」

 そんな彼女に助三郎は手を伸ばした。
彼女の顔を上げさせると、穏やかな声で彼女を慰めた。

「俺こそ謝らないと。もうあんなこと絶対言わないから。な?」

 早苗は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
『ごめんなさい』という言葉が再び口をついて出そうになったが、心の奥底でとめておいた。

 いつか慣れる。

 そう言い続けてのこの様。不甲斐なさでいっぱいになった。
 この気持ちが顔に出ていた。
 助三郎は、顔を覗き込み、不安げに言った。

「……大丈夫か?」

「へ? あ、うん。大丈夫」

 笑顔を作り、そう答えると彼から手が差し伸べられた。

「帰ろう」

 その手を彼女は迷うことなく握った。

 二人は仲良く連れ立って帰宅の途についた。
早苗は握っている夫の手をじっと見た。
 自分の手をしっかり握る大きな力強い手に、安心と幸せを感じていた。
 彼女の視線に助三郎は気がついた。

「どうした?」

「手、大きいなって」

「そうか? そういえば、そうだな」

 早苗は助三郎の前に進み出て、彼を見上げた。

「帰ったらこの手でわたしの肩揉んでね。助さん!」

「あ、腰がまた……」

 どうもないのにふざけてうずくまる彼の様子を、早苗は真に受けた。

「うそ! 揉み方悪かったのかな? 筋痛めちゃった? どうしよう……」

 助三郎を助けようとかがみこんだ早苗を助三郎はがばっと背後から抱きしめた。
そして耳元で囁いた。

「……嘘だ。なんともない。お前の腕は一流だ」

 早苗は恥ずかしさに真っ赤になって立ち上がった。
そして走って逃げた。

「もう、心配したのに!」

「あ、待て!」





 次の日、仕事が早く終わった早苗は由紀の家に遊びに行っていた。
彼女に相談事があったのだった。
 早苗からの話を聞くと、由紀は若干呆れた様子で彼女を見た。

「で、旦那さまの裸が恥ずかしくて見られないのね?」

「そう…… 由紀、平気で男の人の裸見られるでしょ? お風呂覗き見大好きだし」

 言い終わらないうちに、由紀は怒った。

「ちょっと! 人聞きの悪い事言わないでよ!」

 早苗は悪びれる様子もない。

「だって、本当の話でしょ」

 事実だったが、それは結婚前の話。
由紀はそう主張した。

「今はそんなことしないの!」

 由紀は茶を二人分淹れ、心を落ち着かせた。
湯飲みの茶を少し啜り、ほっと一息つくと聞いた。

「助さんがダメなら。格さんのは大丈夫なの?」

「ううん。上はまだ我慢できるようになったけど、あとは無理」

 茶請けの団子をほおばりながら早苗は答えた。
暢気な彼女に、由紀は驚いて言った。

「自分の見られない、旦那のも無理。だったら、夜どうしてるの?」

「暗くて見えないし、お互い着物着てるから平気かな?」

 由紀は大きな溜め息をついた。

「……助さん相当我慢してるわ。可哀想に」

 早苗はハッとした。

「……だからかな?」

「え? なにが?」

「ううん。なんでもない……」

 彼女は理由を見つけた気がした。
なぜ夫が自分を閨にめったに誘わないのか、その理由を。

 一方、由紀は彼女なりに、一つの策を考えた。

「ひとまず。格さんの裸に慣れることが一番ね」

 彼女は早苗の『男の裸拒絶症』を知っていた。
しかし、結婚後完治したと思っていた。
 その矢先のこの相談。出来るだけ力になろうとした。

「どうやって?」

「着替えを男の状態でする。風呂も男で素っ裸で入る。勿論厠も男のままでする」

 早苗はぞっとした。
過去の悪夢を思い出し、鳥肌が立った。

「無理! 絶対イヤ!」

 由紀も彼女の辛い思い出を知ってはいたが、心を鬼にした。

「それがいけないの! 我慢しなさい! 大好きな助三郎さまのためよ!」

 すると、早苗は大人しくなった。

「……助三郎さまの、ため?」

「そう。だから、頑張って」




 早苗は帰宅後すぐに忠告を実践した。
夫に気付かれないように、彼が帰ってくる前に風呂を済ませることにした。
 そして、こっそりと風呂場に向かった。
 男に姿を変え、脱いだ。
ここまでは問題なかった。

「上はまだ大丈夫なのにな……」

 緊急時に男のまま風呂に入るときは多々あった。
そのときは、見たくない物を必ず隠して入っていた。
 しかし、由紀の忠告は『素っ裸で』

「慣れるんだ。俺の身体なんだから……」

 眼を瞑って、すべてを脱ぎ捨てた。

「助三郎のためだ。我慢だ、我……」

 その瞬間、突然ガラッと音が響いた。

「あ」

「へ?」

 扉を開けた者と、見られた者は互いに固まった。
その開けたのはあろうことか助三郎。
 彼は眼を泳がせ、すぐに背を向けた。
 
「……すまん、格さん」

 そして後ろ手で扉を閉めた。

「あ、あぁ……」

 彼は風呂場から立ち去った。
 残された早苗はそのまま風呂場で身体を洗い、湯船に浸かった。

「……見られた」

 己の身体に眼をやった。
しかし、耐えれずにすぐに逸らせた。

「逆効果だったかな……」

 女の方の裸も、ろくに見せたことがない。
それなのに、男の裸を諸に見られた。
 猛烈な申し訳なさを感じ、彼女は大きな溜息をついた。

「こんな半分男の嫁ヤだよな、やっぱり……」

 今後一体自分はどうすればいいのか思い悩み、彼女は逆上せてしまった。




 風呂から上がって女に戻ると、彼女は居間へと向かった。
夫に謝ろうと、彼の姿を探した。

「……あれ?」

 彼は机に突っ伏していた。
どんよりとした空気が彼の周りに感じられたが、早苗は思い切って彼に声を掛けた。

「……助三郎さま?」

 すると、彼は首だけ振り向き、彼女をぼんやりと眺めた。

「……早苗?」

「どうしたの? 調子悪いの?」

 眼がおかしかった。遠くを見るような、妙な眼だった。
しかし、彼女の名を呼び、顔を起こした。

「早苗?」

「……なに?」

 すると、彼はへなへなと崩れ落ちた。

「よかった。また戻れなくなったのかって思って……」

「あ、ごめんなさい……」

 余計な心配をさせてしまったことを謝った。

「こうしてちゃんと貴方の前に居るから。大丈夫。気にしないで。ね?」

 安堵した様子だったが、次には先ほどの原因を自分のせいにし始めた。

「……じゃあ、俺が、男の裸に慣れろって言ったのが原因だよな?」

「え? ま、まぁ……」

 少し恥ずかしかったので眼をそらすと、彼は手を付いて謝り始めた。

「俺が悪かった」

「そんなことない。わたしがわるいの……」

 彼の身を起こそうとしたが、彼は再び謝った。

「いいや。俺がお前の気持ち考えてなかったせいだ。ごめん!」

 何度やっても、謝りのしあいっこになって決着が付かない。
早苗は解決方法にあることを思いついた。

「……じゃあ、格之進で慣らすのは止める」

「あぁ。無理はするな」

 ほっとした様子の彼を、早苗は少し刺激してからかってみる事にした。

「代わりに助三郎さまので慣れる!」

「は!?」

 助三郎の顔は一気に真っ赤になった。

「ね? 助三郎さまのならいいでしょ?」

「お、俺の!?」

「うん。ダメ?」
 
 彼をにっこり見つめると、彼の顔は更に紅くなった。

「ダメ、じゃない。ダメなわけない……」

 夫を少しは積極的に出来たかも知れないと、早苗は満足した。

「さて、ごはんにしましょ」





 次の日の朝、早苗の前で突然下女のお夏が頭を下げた。

「帰国のお許しを頂きたいのですが……」

 それは突然の出来事だった。
************************************************
(*1)呉服橋門内《ごふくばしもんない》
江戸城呉服橋門内。
今の東京都中央区八重洲辺り

(*2)羽州《うしゅう》
(*3)出羽国《でわのくに》
今の山形県と秋田県

(*4)米沢藩《よねざわはん》藩主上杉綱憲《うえずぎつなのり》
吉良上野介義央と上杉富子の長男。米沢藩四代藩主。
初代はあの上杉景勝。
石高は初代三十万石→三代十五万石
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