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 ←〈01〉 御曹司 →表紙絵たち
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月も朧に

〈02〉 藤屋へ

 ←〈01〉 御曹司 →表紙絵たち
芸名、倉岡吉治郎。
 屋号、芳野屋。

 それが役者としての佐吉であった。

 彼は五代目倉岡吉左衛門の長男。
本来ならば、父親の後を継ぐ御曹司のはずだった。

 初舞台を踏んだのは彼が五つの年。
そこで代々跡取りの息子が子ども時代に名乗ってきた『倉岡吉太郎』を名乗った。

 誰よりも喜んでくれたのは実の母。
 しかし、その母は次の年に病で亡くなった。

 喪が明けるとすぐに父は再婚した。
拒んだものの、周りからの圧力に負けた。
芳野屋に多大な援助をしてくれている大店の娘を娶ることになったのだ。
 
 二人にはすぐに子ができた。

 男の子だった。

 母の実家は喜び、より一層の援助をした。
そして弟は五つになった年に同じように初舞台を踏み、『倉岡吉太郎』を名乗った。
 佐吉はこの時同時に『倉岡吉治郎』を襲名することになった。
 
 これによって、彼が後継者ではないということを公に示すことになってしまった。
 
 奪われたのは名前だけではなかった。
 この時、父親とやるはずだった『連獅子』
 弟に取られ、袖でただ見ているしかなかった。

 この時を境に、父と弟が出る舞台でまともに役を貰えることが無くなった。
 しかし、彼は文句ひとつ言わずどんな小さな役でも全うした。
 
 そんな彼に、客は付いてきた。
盛大に歓声を送り、小屋に足を運んだ。

 継母はそれがおもしろくなかった。 
実家の父にすがり、吉左衛門に圧力をかけさせた。

 日に日に出番が削られ、ある時佐吉は舞台に立てなくなった。
 しかし、佐吉はそんなことになっても負けはしなかった。
 というよりも、彼は芝居が大好きだった。
 
 舞台に立てなくとも、裏方を手伝ったり、皆の芝居を袖で見たりしていた。
 いつかまた舞台に立ちたい。
 そう願いながら。





 捨てる神あれば拾う神あり。
 あまりにひどい仕打を見かねた友人がいた。
 彼も御曹司。彼は自分の父親に佐吉の話をした。
彼は佐吉に同情した。そして梨園の仲間に声をかけ、救いの手を差し伸べた。
 
 その時から、彼は倉岡の家を離れて舞台に立った。
さまざまな家に混ざって、その家の芸を学んだ。
 父の下で自分の家の芸の修行はできなかったが、彼には幸せな日々だった。 
 
 芝居ができる。舞台に立てる。
 
 佐吉は水を得た魚のように、力をつけていった。
あっちこっちの芝居小屋に出るので、顔を売る機会も格段に増えて人気も上がった。
  




 しかし、継母は執念深かった。
自分の腹を痛めて産んだ子より、先妻の息子の方が人気も実力もある。
 そんな評判に烈火のごとく怒った。

 そして、とうとう佐吉を梨園はもとより、大阪から追い出そうと画策した。
   
 継母は夫の弟子をてなずけ、佐吉に接近させた。
そして、世話になっている家の主の金を盗ませ、それを佐吉の持ち物に忍び込ませた。

 もちろん、盗みはすぐに発覚した。
そして、すぐにその金が佐吉の荷物から見つかった。
 驚き、否定する佐吉。皆はそれを信じようとした。
 そして彼の無実を証明しようと、彼と同年代の若者が動いた。

 その結果、盗みは佐吉についてきた吉左衛門の弟子の仕業であり、ひいてはその男を使った佐吉の継母が悪いというところまで突き止めた。

 それは身内内での揉め事。
若者たちの親は、内輪で穏便に済ませようと、話しあった。
 しかし、いつもは何も言わない吉左衛門がこの時ばかりは動いた。
 妻を一時実家へ帰し、手先になった弟子を破門にしたのだ。

 これで落ち着いたかに見えた。
 しかし、吉左衛門は妻の執念深さを恐れた。
 今まで何の対策も取らなかったことを反省した。
実の息子が酷い目に遭っているのに、見て見ぬふりをした。
 それを悔い、彼への償いの為、また彼の将来のため、遠く離れた江戸へ婿養子に出すことに決めたのだった。


「行っておいで」

 彼は息子を優しく送り出した。

「せいぜい、がんばりなさい」

 継母はそう吐き捨てた。
最後まで彼に優しい顔を見せてはくれなかった。





「……大丈夫ですか?」

 顔色が悪い佐吉を心配し、三太は歩みを止めた。

「やなこと思い出してたわ……」

 力なく笑う彼に、優しく言った。

「私は、佐吉さんの味方です」

「おおきに…… そういえば、兄さんはいつ大阪に戻るんや?」

 少し寂しそうに聞いたが、あっけらかんと三太は答えた。

「そやなぁ…… 藤屋のお兄さん方に追い出されるまでかな」

「え」

「それまで帰る気毛頭ありません」

 その言葉が頼もしくも嬉しくもあり、佐吉は目頭を押さえた。

「兄さん……」

 三太は肩にポンと手を起き、

「一緒に江戸で芳野屋の意地を見せつけましょ!」

「おぅ!」

 涙を拭い、やる気を見せた彼を満足そうに眺めた。

「さ、そのいきで、挨拶いきましょか」

くるりと向きを変え、先に立って彼は歩き始めた。

「兄さん、いきなりは無理や……」

 佐吉はしゃがみこんだ。

「なんで? もう目の前、藤屋さんの家でっせ」
 
 構わず彼を引きずった。

「心の準備がまだや!」

「へたれはあきません! 全然変わってへんなぁ、あんたはもう!」

 三太は佐吉を強引に引きずって行った。





 玄関先でお手伝いさんらしい老婆に案内を請うた。
すると、中から三十路程の奥様然とした女が出てきた。
 綺麗というより、かわいいが当てまはる女だった。

「どちらさまでしたか?」

「大阪から来……」

 言い切らぬうちに、その女は手を打ってうれしそうに聞いた。

「もしかして、芳野屋さんの?」

「は、はい」

「藤五郎の妻の藤です。さぁ、上がってちょうだい」

「お、おじゃまします……」

 カチカチの佐吉が、三太は気がかりだった。

「佐吉さん、そんなに緊張せんと」

「無理や」

「はい、深呼吸して」

 三太の助言も虚しく佐吉の緊張が緩むことはなかった。


 客間に通されると、先ほどの老婆が茶を運んできた。

「長旅で疲れたでしょう? さ、お茶でも飲んで」

 そうお藤に勧められたが、佐吉はカチンカチンに緊張したまま。

「ありがとうございます」

 そんな彼の緊張をほぐすように、お藤は明るく話しかけた。

「今晩は歓迎会よ。何食べたい?」

「え」

 お藤の気遣いもむなしく、佐吉は湯呑を手にしたまま固まった。 

「ごめんなさい。わからないわよね。そうね、お刺身大丈夫?」

「は、はい……」

 どうにか返事を返した佐吉を横目に、お藤はてきぱきと指示を出した。

「じゃ決まり。お常さん、お造り十五人前と、お酒の準備お願い」

 奥から手伝いのお常の返事が聞こえた。

 それ以降、物音がしなくなった客間。
お藤が口を開いた。

「今日から、貴方達二人は藤屋の一門。佐吉、三太って呼びますからね」

 佐吉は手をつき朗々とよどみなく挨拶をした。

「精一杯励みます。兄さんともども、よろしくお願いいたします」

「あら、こういうのは緊張なしで朗々と言えるのね」

 またも緊張で固まってしまった佐吉の援けに三太が入った。

「女将さん、この人えらい緊張しいでして…… 舞台はいっこも緊張せんと立つんですが、初対面の人と話す時はいっつもこうでして。すみません」

「あら、そうなの」

「早く慣れさせますよって、ご安心を」

「よろしくね。そういえば、わたしの事は『おかみさん』じゃなくて、『おかあさん』って呼んで。『兄さん』でもいいけど」

「え? ……兄さんですか?」

 三太は怪訝な顔をした。
しかし、お藤から説明はしてもらえなかった。

「それはまたあとで説明するわ。夫が帰ってきたみたいだから」





 そこに現れたのは藤屋の頭領だった。

「こんにちは、私が藤五郎だ。佐吉と三太かい?」

「お、大阪から来ました。佐吉と申します」

「同じく三太です」

「佐吉、大きくなったな。それもそうだな。あれはお前さんが三つの時だ。覚えてないだろう」

「は、はい。父から聞いてはいましたが」

 藤五郎は若いころ、大阪に来ていたらしい。
そこで佐吉の父吉左衛門と意気投合し、よくつるんでいた。


「お父さんは元気かね?」

「はい」

「そうか、そうか。いや、見れば見るほどお父さんによく似ているなぁ」

 佐吉は緊張ではなく、ある思いのせいで言葉に詰まった。

 彼は弟より父に似ていた。
 それゆえ、継母に余計に疎まれたのだった。
 継母が己を睨む顔が浮かび、悲しくなった。


「そうだ、お藤、夕餉は?」

「宴会の仕度しましたよ」

「……ちょっと来てくれるか」

「はい」

 藤五郎夫妻が奥でなにやら話しあっている間、佐吉と三太も話しあっていた。

「佐吉さん、ただ食べるだけじゃあきませんからね」

「わかってる」

「第一印象は大事ですからね」

「わかってる」

「まだ緊張してますか?」

「俺の人生掛かってるんや。緊張するにきまってるわ」

「いや、何時もの事ですやん」

 三太の言葉は佐吉に届かなかった。
彼はこれからの歓迎会の事で頭がいっぱいだった。




 佐吉の緊張がほぐれぬまま、客間には続々と人が集まり、二人の歓迎会となった。

「よろしくお願いします」

 佐吉は藤五郎に促されるまま、まず最初に上座に座った老人に酒を注いだ。

「また会ったな。期待しておるからな、佐吉」

 ニッと笑ったその老人をよく見ると、昼に芝居小屋で会った老人だった。

「あっ」

「改めて、藤翁だ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 二人の会話を興味深そうに藤五郎が聞いていた。

「お父さん、佐吉と会ったんですか?」

「さっき芝居小屋でな。熱心に永之助の保名を見ておったわ」

「そうですか。佐吉、江戸の芝居小屋はどうだった?」

「はい。大きいし、広いし、活気があって、お客さんもノリがええんで、立つのが楽しみです」

 目を輝かせて話す彼に、藤翁、藤五郎父子は満足そうに微笑んだ。





 一人一人に酌をし、挨拶していた佐吉だが、ある男の前ではっと気づいた。
その場に居る男たちの中で一番若い男。
 彼こそ、先ほど舞台で保名を踊っていた男。『永之助』だった。

 彼は周りと一緒になって騒ぐことがあまりなく、たまに相槌を打ったり、返事をする以外は大人しく料理を口に運んでいた。
 そんな彼に、佐吉は恐る恐る近づき酒を差し出した。

「よ、よろしくお願いします……」

「あ、よろしくお願いします。ごめんなさい。お酒飲めないから…… 代わりに呑んでください」

 にこっと笑って酒を注いでくれたその男に、佐吉は安堵した。

「ありがとうございます」

 しかし、手が震えているのを見られた。

「……緊張してます?」

「あ、はい……」

「慣れたらでいいけれど、敬語じゃなくていいですよ。佐吉兄さん」

 再び、にこりと笑顔を見せた永之助に佐吉も笑顔で返した。

「はい。がんばります」





 宴会がお開きになり、二人にあてがわれた部屋の布団の上で、佐吉は三太と反省会をしていた。

「挨拶は上出来、あとは名前と顔を一致させることや……」

「明日は他所の家に挨拶周り。もっと覚えな……」

「そうです。一緒に頑張りましょ」

 一緒になって頑張ってくれるうえに、頼れる兄弟子。
そんな彼が居て心強い佐吉は、安心して布団の上に大の字に転がり大きく伸びをした。

「頑張るで!」

 佐吉の所行に不満はなかったが、三太には気になることがあった。

「しかし、なんでお嬢さんはあの席に居てへんかったんやろな……」

「そういえば……」

 江戸に来た理由は、婿養子。
近い将来結婚するはずの相手が不在。
 しかし、誰も気にすることなく歓迎会は進んで行ったのだった。

「それに、永之助の正体も分からんかったみたいやし……」

 永之助の正体を知りたがっていた当の佐吉は、嬉しそうに言った。

「ええ人そうやったで。にこって笑った顔が何とも言えんかったわ」

「佐吉さん、それはお嬢さんの褒め言葉に取っとき」

 彼は聞いていなかった。

「若い娘が『キャー 永さま!』って言う訳解ったわ」

「そんなら、佐吉さんは『キャー 吉さま!』って言われるように精進せななりませんな」

「……なれるかな?」

「なれるか、なられへんかやない。なるんです!」

「よっしゃ。やったろうやないか!」

「そうです、そのいき! ということでもう寝ましょ」

 そう言ったとたん、彼は布団の中に入り高鼾。

「早っ! ……お休み、兄さん」

 佐吉は期待と不安で胸がいっぱいだったが、長旅の疲れと気疲れのせいか、すぐに眠りに落ちた。
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