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月も朧に

〈06〉 白浪五人男

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『青砥稿花紅彩画《あおとぞうしはなのにしきえ》』
通称『白浪五人男《しらなみごにんおとこ》』

 日本駄右衛門《にっぽんだえもん》を頭に、
女装の美人局弁天小僧菊之助《べんてんこぞうきくのすけ》、
神出鬼没な忠信利平(ただのぶりへい)、
元は武家のお小姓赤星十三郎《あかぼしじゅうざぶろう》、
元漁師の南郷力丸(なんごうりきまる)

この五人の盗賊が活躍する物語りである。(※1)

「役替わりが確かに大変だろうが、よく考えてみたら出番が多いのは三役だけ」

「そう言えばそうだ。後の二役は通し(※2)なら出番があるが、浜松屋はないよなぁ」

 男二人が冷静に分析し終えると、永之助はにこりと笑った。

「では、五人で日本駄右衛門、南郷力丸、弁天小僧菊之助の奪い合いといきましょうか」

 佐吉はいつも彼女の笑みに癒されていたが、今回ばかりはゾッとした。
まともに主役を張った事がない自分が、実力も人気もある他の仲間たちと対等にやりあえるのか。
 俯き加減の彼の心を読み取ったのか、又蔵は厳しい口調で言った。

「佐吉、逃げるなよ」

 利蔵も真面目な顔つきでそれに言葉をk~げた。

「そうだ。家も経験も年齢も関係ない。最終的に決着を決めるのは観客。俺たちは精一杯やるのみ」

 佐吉は顔を上げた。

『精一杯やるのみ』

 やれる場所がある。 
心おきなく、芝居ができる。
 腹を決めた。

「わかった。逃げへんで」


 その日からすぐに稽古がはじまった。
皆台詞はほぼ前に頭に入っている。
 しかし、問題はその言い方、芝居をする間。
相手が違えば、間合いも違ってくる。
 役替わりはそこが大変だった。

 浜松屋の場面。
良家の娘が家来を連れて、呉服屋浜松屋にやって来る。
娘は近々結婚するので、婚礼の支度のためといろいろ品定め。
 しかし、番頭は見ていた。娘が万引きする瞬間を……

 この娘、実は弁天小僧菊之助。武士は兄貴分の南郷力丸。
店でいざこざを起し、ゆすろうと言う魂胆。
 しかし、弁天小僧の正体はばれてしまう。
店の奥から出てきた武士によって。
 そして開き直った菊之助による有名な台詞『しらざぁ言って聞かせやしょう』の聞かせどころとなる。

 が、女形をやったのは皆無に等しい佐吉。
弁天小僧はともかく、正体がばれる前の娘の芝居にかなり苦戦した。

 身振り手振りが柔らかくできない。
 高い声が出ない。

 指導に当たる鳴海屋の長、緒川清十郎は彼の経緯を藤五郎から聞いていた。
叱りはせず、適切に指導した。

「本物の女をよく観察しなさい。所作をよく観察しなさい。声は仕方がない。
佐吉は立役としては本当にいい声だ。口跡もいい。無理に女の声を出そうとしてつぶしてはだめだぞ」

 佐吉は初めて自分の声を褒められ、驚いた。
それを聞いていた又蔵、利蔵は自分のことのように喜んだ。

「よかったじゃないか。誉められたぞ」

「おおきに」

「吉ちゃんがそれだけいいと、鳴海屋のお父さんも辛いだろな。なんで兄さんは良いのに、次男はあんななのか……」

 残念そうに言う利蔵。
 会った事のない「鳴海屋の次男」
 話題にはよく登る「鳴海屋の次男」
 佐吉はやはり気になった。

「次男って、どんな人なん?」

「そうだな、あいつは……」

 話し掛けた利蔵を又蔵が制した。

「いかん。永ちゃんが来る。またにしておけ」

「あ、そうだな」

 どうやら永之助に聞かれると不味いらしいことだけはわかった。
そして、その日は「鳴海屋の次男」の事を考えるのはやめにした。

 次の日彼は稲瀬川の場面しか出番のない二役のうち、忠信利平役の稽古だった。
同じく出番の少ない赤星十三郎役の雪弥と共に自主稽古をしていた。

「どうや? 立役は?」

「難しいです。太い声が出ません」

「俺と真逆やな。高い声が全然出ん」

「でも兄さんは立役を極めれば良いでしょう? 私は女形を極めないといけません」

 自信と決意に満ちた眼差しに、彼はおどろいた。
同時に彼の家が気になった。確か彼の家は……

「雪弥…… 本名なんやった?」

「弘次郎です」

「弘ちゃんでええか?」

「はい」

「弘ちゃんの家は、立役の家やなかったか?」

「はい。父も叔父も兄もみんな立役です」

「なのに、弘ちゃんは女形極めるんか?」

「はい。自分で言うのもなんですが、三河屋から数十年振りの女形が出たって、重宝されてます」

 彼の自信、決意はそこから来ている。
血のつながった実の家族に必要とされる。
 羨ましかった。

「……ええな。仲のええ家族」

 ぼそりと呟いたその言葉は弘次郎には聞こえなかった。

「あ、佐吉兄さん。永之助兄さん弁天の見顕し稽古するみたいですよ、観に行きましょう!」

「お! 行く行く!」

 佐吉は大阪でやっていた、『見る稽古』もしっかり続けていた。
演者の良い所は盗み、指摘された点はどこがどういけないのかしっかり聞き、自分の物にする。

「よくやるなぁ」

 利蔵はそう言った。

「俺、見る稽古あんまり好きじゃないんだよ。一緒に体動かした方が好きだわ」

 もちろん一緒に身体を動かすこともする。
しかし、それは主観でしかない。
 客観的に観る事も大事だと、彼はなんでも観た。
主役級の芝居だけでなく、脇役達の稽古場にも足を運び観た。
 そして、大阪にいた時より生き生きとした表情で稽古する兄弟子三太を見て安堵した。





 初日まであと三日となったその日。
朝から化粧の稽古をしていた。

 といっても、主に佐吉の特訓である。

 ここでも、女形をやったことが皆無に等しい佐吉は苦戦を強いられた。
 何時も通り、三太が彼を手伝っていたが、呆れ返るばかり。

「ぶっさいくやなぁ」

「言わんでもわかってる」

「いくらなんでも、そらあかんわ。佐吉さんを贔屓にしとった芸舞妓子が泣くで」

「俺がぶさいくやからって泣くか? 俺のほうが美人だったら泣くんとちゃうか?」

「いいえ。御客はんはこの世にないくらいええ男、ええ女を芝居に観に来るんです。それやのに、自分たち以下のぶさいくやなんて、あかん! 『金返せ!』言われまっせ」

「それはあかんな。でも兄さん、このぶさいくな女にしたのは兄さんにも責任があるのとちゃうか?」

「うっ……」

 立役ばかりだった彼の手伝いをしていた三太。
化粧がこのざまである。着付けはどうなるやら……

 この二人のやりとりをみて他の面々はくすくす笑っていた。

「三太さん、佐吉は俺よりはマシですよ。俺は女形やるなって言われるくらい男顔なんで」

 そう言う又蔵に続いて利三も、

「俺も化粧下手だから、同じもんですよ。さてどうする? 又やん」

「まずは専門家に頼もうか。永ちゃん、弘ちゃん、指南頼む」

 二人掛かりでああだこうだと化粧の稽古。
新たな事をたくさん学んだ三太は満足顔、しかし……

「どや?」

 自分ではマシだと思う佐吉に三太は容赦なく言い放った。

「ほんますんません。いくらお二人の腕でも、素材があきませんわ」

 その場は爆笑の渦に巻き込まれた。





 その夜、若者五人組は藤屋で藤五郎と共に食事をしていた。
日々の稽古の報告会であった。

「どうだ? どれが一番やりやすい?」

 利蔵がまず答えた。

「日本駄右衛門です」

「そうか、貫禄が居るからこの中ではお前が適役かもな。利は?」

「鳶頭清次《とびがしらせいじ》(※3)です」

「は?」

「江戸っ子ですからね。一番やりやすいんですよ。そういえば、俺、一応は呉服屋の若旦那ですよ。若旦那が強請役って、地で弁天小僧(※4)じゃないですか。だから俺が弁天やっても面白みがない」

「そりゃそうやな。反論できんわ」

 感心している佐吉に、期待のこもった眼差しを藤五郎は向けた。

「佐吉は?」

「南郷力丸です」

「そうか。できそうか?」

「役貰えるよう、頑張ります」

 藤五郎は満足そうにうなずいた。

「永之助と弘次郎はやはり弁天小僧か?」

「はい」

 二人は仲良く声を揃えたが、互いの間には負ける物かという気の張り合いが見て取れた。

「皆、精一杯がんばりなさい。さて、明日も稽古だ、そろそろお開きにしよう」





 帰り道、又蔵、利蔵、弘次郎の三人の話題に上ったのは藤屋の二人だった。

「仲いいよな。永ちゃんと佐吉」

「そりゃ、吉ちゃんは藤屋さんの婿候補だ。……それに、あの鳴海屋の次男より絶対に佐吉のほうがいい」

「そうです! お永姉さんは絶対佐吉兄さんと一緒になるべきです! 私は、あの人、嫌いです……」

「皆の意見は一つ。佐吉を応援しよう。な?」

「おう。当たり前よ。俺みたいに強固な後ろ盾と可愛い嫁は持った方がいい」

「早く帰らないとその可愛い嫁さんが鬼になるんじゃないか?」

「やばい! じゃあ、また!」

「おう!」

「お疲れさまでした!」

 三人は別れた。
初日まで、後少し……

(※1)青砥稿花紅彩画《あおとぞうしはなのにしきえ》
二代目河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)作の世話物(江戸時代の市井の話題や風俗などを扱った演目)
通称白波五人男。新しくなった歌舞伎座の杮落し公演でも上演。


(※2)通し《とおし》
一つの話を最初から最後まで上演する事。
作者が好きな『仮名手本忠臣蔵』は通しでやると昼夜約十時間ほどの耐久レース。
二回ほど経験。(ファンでも疲れます)


(※3)鳶頭清次《とびがしらせいじ》
浜松屋の用心棒


(※4)弁天小僧菊之助
浜松屋の息子が実は日本駄右衛門の実子であり、弁天小僧こそが浜松屋の実子であったことが『浜松屋見世先(はままつやみせさき)の場(ば)』、『稲瀬川勢揃(いなせがわせいぞろ)いの場の間にある『蔵前《くらまえ》の場』にて判明する。
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