FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←万松山 吉祥寺 →〈12〉 継承
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



総もくじ 3kaku_s_L.png 雪割草シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 月も朧に
もくじ  3kaku_s_L.png ひとこと
もくじ  3kaku_s_L.png いろいろ
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「雪割草シリーズ」
凌霄花

 〈05〉 理解

 ←万松山 吉祥寺 →〈12〉 継承
 突然訪ねてきた兄の平太郎は、二人が元に戻るまで居座ると決め、
水戸の職場に休暇届けを出してしまった。

「いつまで休むおつもりですか?」

呆れながら格之進が言うと、彼はすぐさま言い返した。

「お前こそいつまでそのままでいる気だ?」

「だって……」

ぼやく格之進にむかって平太郎は捲し立てた。

「いいか?佐々木家存亡の危機以上に、橋野家存亡の危機だ。
父上、母上、義姉、姪っ子、お腹の子を路頭に迷わせる気か!?」

しかし格之進は怯まなかった。

「おや、義姉上は御懐妊ですか!? おめでとうございます!」

「話を逸らすな!ああだこうだいわずに早くあいつと寝ろ! いいな!?」

「兄上、夕餉がまだです。風呂もまだですし」

「だったら早くしよう。お富、風呂頼む。お前は美帆を呼んで来い」

「はい……」





彼女の寝顔は可愛かった。
しばらく眺めていると、小さなくしゃみをした。
その様子も可愛いとにやけていたが、はっと我に帰り彼女の肩を揺すった。

「おーい。起きろ、風邪引くぞ」

寝ぼけていたのか、ギュッと抱きついて来た。

一体何の夢を観ていたのか……
たまらず優しく抱き返すと、間も無く彼女は目を覚ました。

「……あれ?」

怒られないうちに、格之進は身体をそっと離した。
怒るどころか、今だぼーっとしている彼女が可愛くてたまらない。
満面の笑みで彼女のおでこを人差し指で突いた。

「寝坊助さん」

ようやく目が覚めたのか、真っ赤になって俯いてしまった。
にやけた格之進だったが、はっと我に返った。

先ほど、女の美帆を拒絶したにもかかわらず、
自分は女の美帆を愛しく思い、接してしまう。
自分勝手極まりない行動で、大事な人を傷つけることしかしていない。
全てを反省し、次に進まねばならない。
俯いたままの彼女に笑顔で手を差し出した。

「夕餉だ。行こう美帆」





 その夜、平太郎は居間で一人、思案に暮れていた。
すると畳に突如、風車が突き刺さった。
驚くそぶりなど微塵も見せず、彼は天井を仰ぎ見た。

「弥七か?」

「こんばんは。早苗さんは?」

「居るには居るが、格之進だ……」

「戻れないんで?」

「まぁな……」

多くを語らずともわかる弥七。
平太郎は彼に助けを求めた。





「あ、弥七」

平太郎に呼ばれた格之進は、彼を見るなり頭を下げ謝った。

「迷惑掛けた。すまなかった……」

「いいえ。御無事でなにより」

 それから遅くまで、弥七は留守中の出来事を洗いざらい説明した。
全ては仕事の内容。

「……ということです。大石様は京についたと今日お銀から連絡がありました」

「そうか。しばらくは京で様子見か?」

「へい」

「お銀にもよろしく伝えてくれないか?」

彼女にも心配と迷惑をかけた。
他にも謝らなければならない人がたくさんいる。

「大工の棟梁んとこは、行かなくていいんですかい?」

彼もその中の一人だった。

「行きたくても行けないよ…… この形じゃさ」

格之進の格好では問題がある。
それ以上に助三郎と二人揃って行かねば意味がない。
大きくため息を着くと、弥七は穏やかに声をかけ、姿を消した。

「まぁ、年越す前までに戻れば、いいと思いますがね」





 夜ももう遅い、寝間に戻ると、美帆はもう寝ていた。

「おやすみ……」

 寝顔を眺めた後、彼は美帆の寝ている布団に潜り込み、背中合わせで眠りに就こうとした。
しかし、その晩はなぜか眠りに落ちるのにかなりの時間を要した。





 次の日の朝、九壱郎が前触れもなくひょっこりやって来た。

「ねぇ、まだ戻れないの?」

「残念ながらな……」

「あーあ。早苗ちゃんの顔見たかったのに」

ぶうぶう言う彼を睨みつけ、

「黙れ。用がないならさっさと帰って」

 吐き捨てるように悪態をつく美帆。
そんな彼女に怯みもせず、さも悲しいといった表情を作って見せた。

「ほんと悲しいよ。美帆ちゃんは怒ってばかりだし……」

「美帆ちゃんって言うな! だから、用事は!?」

「そうそう。……弥生の処分、手配できたよ」

ふざけては居るが、仕事はしっかりこなす男だった。

「仕事早い! 助三郎も見習ってほしいもんだ」

「ふん!」

自分以外には怒ってばかりの美帆を面白そうに見やり、
格之進は真剣な眼差しで九壱郎へ問うた。

「……弥生に会うことはできるか?」

覚悟はとうにできていた。
しかし、出来ていない者がいた。

「ダメ!」

「格ちゃん、奥さんがダメって怒ってるけど?」

冗談交じりの九壱郎に、美帆は取り合わなかった。

「早苗、絶対にダメ! あんな馬鹿女に会ったらダメ!」

格之進も彼女の鬼気迫る様子に驚いた。
しかし、覚悟はすでに決めていた。今更、取り消しは出来ない。

「どうしても、俺の口からあいつに言いたいんだ」

「ダメ! あの女には近づかないで!」

「いや、行かせて欲しい。これで最後だから」

「ダメ! こんなことになるなら、殺しておけばよかった!ううん。今からでも間に合う……」

「何言ってる!?」

いつか見た生霊。
生身の状態で、またあの様になってしまっては困る。
恐れた格之進は、お富に命じ、助三郎の刀を隠させた。

取り込み中の二人を置いて、九壱郎はそっとその場を抜け出した。
格之進は表向きは謹慎中。外出には許可がいる。

格之進は、許可をあの手この手で美帆を落ち着かせ、納得させようと試みた。
しかし、困難を極めた。
お手上げかと思った矢先、仕事を終えた九壱郎が戻ってきた。

「格ちゃん。許可もらってきた。行こう」

「そうか。ありがとう」

 美帆は力づくでしがみついた。

「行ったらダメ!」

 しかし、格之進は心を鬼にして力任せに振りほどくと、
畳に這い蹲る彼女に目もくれず、足早に玄関へ向かった。
 形振り構わず美帆は、叫んだ。

「お富! あたしの代わりに格さんを止めて!」

 しかし、お富にも無理だった。
格之進の意思は揺るがない。

「格さん! 行かないで!」





 泣き始めた彼女を置き去りにし、玄関の扉を後ろ手で閉めた。声は外まで聞こえている。

「大泣きしてるけどいいの?」

 溜息交じりにそう聞かれたが、構ってなど居られない。

「いいんだ。行こう」





「これで水戸に帰れる!」

 仕事を終えた二人。
九壱郎は大きく伸びをした。
 格之進も、天敵に完全勝利を収め、清々していたが、一方でいろいろな人に迷惑をかけすぎたことに、
罪悪感も感じていた。
 早く謝り、対処し、次に進まなければならない。

「気にしない気にしない! それよりさ…… 助ちゃんと仲良くね。
あいつ、ほんとはすっごく脆いから……」

 それは十分わかっていた。

「……早苗ちゃんが、ほんとに好きなんだ。だから、虐めないでやって」

 そして、自分の存在が、彼の原動力である一方で弱点でもあることも理解していた。
自分は、諸刃の剣……

「よし! じゃ、水戸に戻ったら、家族ぐるみでお茶でもしよっか!
春恵がずっと早苗ちゃんに会いたがってるからさ」

 その言葉で、無性に親友に会いたくなり、さっきまでの暗い気分は晴れた。
しかし、引っかかることが一つだけあった。
 彼女に、己が男に変われることは、知られたくないのだった。

「九壱郎、頼むから、俺の正体を春恵には言わないでほしい……」

「大丈夫。墓場まで持ってくから。おっと、忘れてた。悪いけど、外出ついでに、春恵への土産選び手伝ってくれない?」

「大丈夫かな……」

 『ほぼ本物の男とほとんど一緒』と兄に言われたことが気がかりだった。
今、女の気持ちで、女がほしいものを選べるのだろうか。
 
「大丈夫だって! その辺の野暮な男よりずっといい! 行こう!」





「ただいま……」

 九壱郎と別れ、役宅の玄関をくぐった時、既に外は真っ暗だった。
何も考えずに、ふらっと中に入るなり彼は腰を抜かさんばかりに驚いた。

「うわっ! びっくりした……」

 玄関にお富が明かりもつけず座っていたのだった。

「お嬢様! いったいこのような時間まで何をされていたのですか!」

 珍しく感情を露わにして怒る彼女に気圧され、言い訳も言えなかった。

「えっと…… その……」

「何でもよろしいです。早く旦那様を泣き止ませてください。近所迷惑です」

 怖い下女に急かされ、奥に向かうと、置き去りにしたままの位置で
泣き続けている美帆を見つけた。
 少々呆れながらも、優しく声をかけた。

「美帆、泣きすぎ」

 彼女は声を聞くなり、ぴたりと泣くのをやめた。

「ただいま」

 しかし、格之進にしがみ付き再び泣き出した。

「まだ泣くの?」

 優しく抱きしめ、頭を撫でた。
泣いてる様子もかわいいと、ついにやけてしまう己の男心に苦笑しながらも、
美帆が落ち着くまで続けた。

「あの、馬鹿女が言ったこと、全部ウソだから……」

 鼻を小さくすすりながら、彼女はやっと言葉を発した。

「……ウソって?」

「あたし、あのバカ女、嫁扱いしてない。
早苗のこと、気持ち悪いなんて言ってない。思ってもない。
だから…… 信じて……」

 しがみつく彼女が哀れでたまらず、強く抱きよせた。

「……わかった。信じる。だから、もう泣くのはやめよう」

 そして、懐から包みを取り出した。

「これあげるから」
 
 九壱郎の土産選に付き合う最中、見つけたものだった。

「かわいい…… クロそっくり。ほら、クロ」
 
 奥で不安げに見ていたクロを呼び寄せ、見せた。
当のクロはろくに見もせず、やっと笑顔になった美帆を見てうれしくなったのか、
ひたすら彼女の顔を舐めていた。

「くすぐったい! もう!」

 可愛い犬と可愛い女。
今まで感じたことのない強い気持ちがこみ上げてきたことを不思議に思ったが、
無理やり隅に追いやった。

「これなら、戻っても使えるから……」

「ありがとう。格さん」

あまりに可愛いその様子に、格之進は一人静に悶絶した。





「今日も寝坊!」

三日間連続で格之進は美帆に起こされていた。
夜寝付けない、朝起きられない。
そのせいで毎回寝坊。

 うなだれていると、不安そうな表情で美帆がのぞきこんだ。

「毎朝寝坊してるけど、調子悪い? 大丈夫? ……あれ?」

「どうした?」

目を逸らす美帆を不思議に思ったが、はっと気づいて顔に手をやった。
そして、いやなざらつきを感じた。

「……大丈夫。長い間戻れないと生えるんだ。面倒だな」

 鏡を確認し、二度目の溜息。

「剃刀ある?」





美帆の顔が次第に険しくなって行った。

「……ねぇ、手付きがすっごく怪しいけど、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって。 あ、いてっ……」

 久しぶりの髭剃りに手間取り、案の定切ってしまった。
その時、美帆の我慢の糸も切れたらしい。
 無理やり剃刀を奪い、格之進の身支度を手伝った。

「へたくそ過ぎて見てられない! あたしがやる! 貸して!」

 手際よくすぐに終えてしまった美帆に手放しで感心していた。 
いつか、由紀にやってもらったことはあったが、ここまでうまくはない。

「上手いな……」

「当たり前でしょ。毎日やってるんだから。ほら。男前の完成!」

 いたずらっぽく笑うその姿に、悶絶しそうになったところをぐっとこらえ、
どうにか言い返した。

「男前って言うな……」

「男前よ。格之進さま!」

 挑発するような目線、しかし彼女はその場から笑いながら逃げた。
格之進の身体は勝手に美帆を追いかけていた。

「こら、待て!」





「捕まえた!」

 部屋の隅に追い詰め、にやりと笑った。

「さあ、もう逃げられないぞ。男前は取り消してもらおうか? 美帆ちゃん」

 上目遣いで見つめる目に、鼓動が早くなった。

「いやよ。男前の、格之進さま!」

 そう言われたとたん、頭の中が、真っ白になった。





「格さん」

 聞き慣れぬ男の声。
格之進ははっと我に返った。振り向くとそこには由紀が居た。

「へ? いつから居た?」

 由紀は答えず、格之進の胸ぐらをつかんで引きずった。

「いいから来い!」

 彼女、否、彼はなぜここにいるのか。そして、なぜ不機嫌そうなのか。
 まったくわからない格之進は、ぽかんとしていた。
 すると、由紀は頭を抱えさも残念だといった様子で嘆いた。

「お前、助さんより女のほうが良かったのかよ。ほんと、がっかりだよ!」

「当たり前だろ! 俺は男だ! 女のほうがいいに決まってる! あっ……」

男心に侵食されていた己に、その時気づいた。
さっき、自分はいったい何をやっていたのか……

「……ごめん、邪魔しちまったな」

 帰ってきた言葉は意外なものだった。

「あのまま一発やったら元に戻れたのに、すまん! つい……」

 べらべらしゃべった兄に怒りを覚えたが、由紀の行動は一方的に責められない。
旦那に絶望している一方で、旦那を忘れられない。
 心に闇を抱えている不安定な状態。

「お前こそ、大丈夫なのか? 居場所、決まったのか?」

「あぁ、一応」

「どこだ?」

「……与兵衛さんとこ」

「へ? どうやってもぐりこんだ?」

 よく見ると、彼は身なりは武士。羽織袴姿だった。
どうやって入り込んだのか。

「いや、すぐバレちまった。助さんとは大違いだ」

「さすが与兵衛さん。それで、もう仲直りして、解毒剤取りに来たってことか?」

 これで一安心。
そう思ったが、違ったようだ。

「いいや。解毒剤はいらない」

「なんで? 男同士で住むのか?」

「……いいだろ、別に。お前らだって、表向き男同士なんだし。与兵衛さんだって、当分このままでいいって言ってたし。
親戚が江戸に勉強しに来たってことにしてくれるってさ」

 与兵衛は女の由紀が不要なのか?
不安になった格之進だったが、次の一言で、さらに謎が深まってしまった。

「あ、でさ。俺の名前『ゆきのじょう』だから、今まで通り『ゆき』って呼んでくれ」

「漢字は?」

「幸福の幸で、幸之丞! 与兵衛さんがつけてくれた…… 『ゆき』って呼べるからって……
ってことでよろしく!」

「あ、あぁ……」

 なぜ名前も、素性もさらっと作ってしまったのか?
女の由紀が不要で、男の幸之丞が必要なのか?
 何が目的なのか?
 わからないことだらけだが、今はそれを解明する暇はない。

「俺のことはしばらくはいいから、格さん。早いとこ男になれ。
助さんが嫉妬するぐらいのな!」

 由紀改め、幸之丞はきざってそう言残し、去って行った。





 置いてきぼりにした美帆を探し、もと居た部屋に戻った格之進。
しかし、部屋に彼女はいなかった。
 やはり先ほどした淫らな行いで、彼女に嫌われたに違いない。
格之進は項垂れた。
 しかし、

「隙あり!」

 かわいい声が聞こえた途端、格之進は畳の上に腹ばいになっていた。

「勝った! 格さんに久しぶりに素手で勝った!」

格之進の背の上できゃっきゃと喜ぶ美帆。

「甘い!」

 すぐさま身をひるがえし、彼女を畳に押し付けた。

「甘いぞ。美帆ちゃん」

「あーあ、負けちゃった。やっぱり格之進さま強い」

 男心の浸食の速度が急激に増した。
先ほど感じた罪悪感、不安はどこへやら……

「……続き、いいか?」

 しかし、即、拒まれた。

「畳痛いからイヤ。奥にまだ布団敷いてあったから、行きましょ」

「わかった、行こう」

お誘い

 格之進の男心は喜び、勝手に身体は美帆を抱きあげていた。
しかし、まだ若干残っていた早苗の女心が最後の抵抗を試みた。

「……ん? ちょっと待て!? 布団!? なにする気だ!?」

 すでに女心に完全占拠されたと見える美帆。
ひらりと飛び降りると、腕を抱き抱え奥の部屋へと格之進を引き込んだ。

「いいの! 行きましょ。さぁ、さぁ……」





「茶、冷めるぞ」

 助三郎は、自分のを飲み干すと、相手を気遣った。
やっと元に戻れてほっとしている彼は、茶請けのせんべいをバリバリと
音を立てて食べた。
 そしていまだ格之進の姿のままの早苗をじっと見た。

「……なぁ、なんでまだそのままなんだ? 確認が取れんと、義兄上も水戸に戻れんぞ」

「そうだ。早く戻れ、早苗。今なら松戸の宿まで行ける。さぁ!」

 うつむき加減な早苗の様子に、助三郎ははっとした。

「あ、まさか、ヤったせいで、ほんとに男になったとかじゃないだろな!?」

 すると即座に睨まれ、怒声を浴びせられた。

「黙れ! どスケベ!」

「は!? 誰がスケベだ!」

「身包み剥いだじゃないか……」

「は!? 自分から脱いだのはお前だし、こっちの身ぐるみ剥いだのもお前だ!」

「俺じゃない!」

「こんな時間まで、解放しなかったのはどこのどいつだ? え?」

「違う!」

 そばでくすくす笑う兄を睨み付けながらも、泣きそうな早苗。
助三郎はあわれに思い、語気を弱めた。

「もういい。早苗。わかった。あれは男の格之進だ。お前は早苗だ。だから、お願いだ。早苗の顔を見せてくれ。不安なんだ」

「……わかった。でも、戻る前に、聞きたいことがある。兄上は、あっちに行っててください!」

 早苗は平太郎を追い出すと、赤くなりながら、助三郎に聞いた。

「……姉貴を抱かないのは、疲れやすいからか?」

 一瞬、目が点になった助三郎だったが、すぐさま真っ赤になって反論した。

「お前何言ってるかわかってるか!?」

「だって……」

「お前、わかったろ? どれだけ男の欲望が強いか…… 早苗を壊したくないからだ」

「でも……」

「なんだ?」

ようやく早苗は女に戻った。

「わたしはそんなに弱くない」

 助三郎はほっと胸をなでおろした。

「よかった…… 兄上! 早苗、ちゃんと戻りました!」

 その声で彼は一通り妹を調べると、風のように役宅を後にした。

「やっと帰れる! さらば!」





 やっと抱きしめてもらえる。
夫に身を任せた。

「……もう、そんなに我慢しないでね」

「待ってるだけじゃなくて、誘って欲しい」

「……じゃあ、明日、お願いします」

 その返事に、助三郎はひどく落胆した。

「はぁ? 明日かよ……」

 早苗は膨れた。

「だって今日は疲れたんだもん!」

 助三郎は吹きだし、腹を抱えて大笑い。

「あれだけ柔術すごい格さんでも、女相手の閨はダメだったか!」

「ふん!」





 ひとしきり笑った後、助三郎はどことなく不安げな様子で、早苗に言った。

「怒らないで、聞いてくれるか?」

「なに?」

「……格さんの、脇腹の傷が綺麗に跡形もなく消えてたが、どうしてだ?」

 早苗の幸せな気分が一気にしぼんだ。
自害未遂を再びしたこと、命を繋ぐため、解毒剤を使って一度格之進を葬ったことを、
言わなければならない時が来た。
関連記事
スポンサーサイト



 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 雪割草シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 雪割草シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 月も朧に
もくじ  3kaku_s_L.png ひとこと
もくじ  3kaku_s_L.png いろいろ
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【万松山 吉祥寺】へ
  • 【〈12〉 継承】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。