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「雪割草シリーズ」
凌霄花

 〈06〉 克服

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「今日は疲れたんだよな? 明日でいい……」

 優しいその言葉に、早苗は甘えてしまった。

「ありがとう……」

 しかし、その日一日、早苗の心は晴れなかった。





 その夜、早苗は夫から明日の予定を打診された。

「方々に挨拶に行きたいが、大丈夫か?」

「うん」

 様々なところに迷惑をかけた。
いろいろあって遅れてしまったので、早急に行かなければならない。
 助三郎は素早く予定を組み立てた。

「与兵衛さんところを最後にしよう。由紀さんと話したいだろ?」

「別にいい。あの子、まだ幸之丞だし……」

「そうだった…… 俺こそ与兵衛さんと話が長くなりそうだ……」

 頭を抱える助三郎をぼんやり眺めていた早苗だったが、
意を決して、彼に宣言した。

「助三郎さま。帰ったら言います…… 傷のこと……」

 早苗の不安そうな表情とは裏腹に、
助三郎は穏やかな笑顔だった。

「わかった」





 次の日、二人は迷惑をかけた人たちへ挨拶巡りをして過ごした。
義勝と小夜夫婦に祝福され、大工の平兵衛棟梁には平身低頭謝られ、
娘のお艶には泣いて喜ばれた。
誠太郎と茜の兄妹、新助とお孝には穏やかに迎え入れられた。

 予想外だったのは、与兵衛と由紀の夫婦。
与兵衛の愚痴を聞いてやろうと意気込んでいた助三郎は、拍子抜け。
与兵衛は由紀と喧嘩中よりも明らかに生き生きとして楽しそうだったのだ。
 妻が幸之丞から元の姿に戻ろうとしないのにもかかわらず……
 
 早苗も助三郎も、二人のことが更に不安になってしまった。
 
 すべての予定を終えたころ、あたりはすっかり暗くなっていた。
夜道を急ぐ二人だったが、不吉にも早苗の草履の鼻緒が切れてしまった。

「あっ……」

 よろけた彼女を支え、助三郎は鼻緒を挿げ替えようとした。
 それが、一瞬の隙だった……





「早苗、大丈夫か?」

 早苗は助三郎が自分を呼ぶ声で、目を覚ました。
そして、今自分がどういう状況にあるのかに気づいた。
後ろ手に縛られ、どこかの蔵の中に転がされていた。

「……どこの誰の仕業?」

 取り乱すこと無くそれだけ聞いた。
 彼女は慣れっこだった。

「わからん。相手は忍びだ。な?」

 助三郎の目線の先に、弥七がいた。

「へい……」

 早苗はこれからどうすればよいか考えをめぐらせ始めた。
しかし、夫によって阻まれた。

「……弥七、早苗を頼む」

「へい」

 夫は自分だけ逃がそうとしている。
気づいた早苗は、食って掛かった。

「ちょっと、どういうこと?」

 しかし、弥七に阻まれた。

「弥七! 頼んだ!」

「早苗さん、すみません……」

「へっ!?」

 彼女の記憶はそこで途切れた。





 次に目を覚ました早苗の目に、お富の顔が映った。

「早苗さま、お加減は?」

「大丈夫…… そうだ! 助三郎さまは!? 弥七さんは!?」

 部屋の外から、返事があった。

「ここに……」

 お富がその場を外し、弥七がそばに来た。
早苗は布団から出ると、激しく彼を問いただした。

「どうして、私を気絶させてまで連れ帰ったんですか!?」

「助さんに頼まれたので……」

「どうして!? それに、どうして助三郎さまだけ置いてきたんですか!?」

「それは……」

 いつもと違い、すっきりとした返事をしない弥七。
問い詰めるだけ時間の無駄と、早苗は立ち上がった。


「もういいです! ……俺が助けに行く!」

 動きやすい袴姿の格之進に、姿を変えた。

「格さん! それだけはだめだ!」

 早苗は聞かなかった。
お富に身支度を手伝わせている間も彼は早苗を止めた。

「格さん、だめです。ここでおとなしくしててくだせぇ!」

「黙れ、俺は行く!」

 弥七は焦ったように言った。

「狙いは格さんです! だから、早苗さんを逃がしたんです!」

 その一言で、早苗は察知した。
己を狙うのは、あれしかない……

「……伊賀か? 甲賀か?」

「さあ、それは……」

「まぁ、どっちでもいい。俺のせいで助三郎が危険な目に遭った……
俺が行かないと……」

「しかし!」

 早苗は、普段仕舞い込んである自分の大刀を引っ張り出した。
助三郎に隠れて、稽古で振るうのみ。
 実戦で使ったことはない。

「弥七。俺が生まれた理由、知ってるか?」

 彼の返事はなかった。

「俺が生まれたのは、助三郎を守るためだ…… 前、あいつを守った時に負った傷はもうない……」

 脇腹にそっと手をやった。
『格之進』を一度この世から消した際、消えてしまった傷。
その理由を、彼に言っていない。
言う覚悟ができたにもかかわらず……

「……もう一度戻って来たのは、助三郎のためだ。俺は助三郎を守りたい」

 そういうと、太刀を抜き払って正眼に構えた。

「……助さんが許しますか?」

 助三郎は、早苗に小太刀を、格之進に太刀を振るうことを禁じていた。
すべては早苗が自害未遂をしたせいである。
 しかし、いつまでもそういうわけにはいかない。
 
「許してもらう。そして、乗り越えてほしい……」

 弥七はもう止めなかった。

「……助太刀します」






「早苗は無事か?」

 ずっと柱に縛りつけられている助三郎。
 腹も減り、喉も渇いたが、自分のことなどどうでもいい。
気がかりは早苗のことただ一つ。
 男の一人が、返事をした。

「安心しろ、お前はただの囮。おとなしくしていれば、危害は加えん」

 同じことしか言わない連中。
助三郎も、何度目になるかわからない同じことを彼らに聞いた。

「……格さんに何をする気だ?」

「お前に話す必要はない……」

 しばらくの後、見張りの監視の目を掻い潜り、助三郎は己を縛る縄を切ると、
そばに無造作に置いてあった自分の大刀を取り返した。
 しかし、すぐに首筋に冷んやりとした物を感じた。
見張りの男が、首筋に大刀をあてがっていた。

「おとなしくしていろ」

 従うふりをしたが、一瞬の隙を突き、刀で刀を跳ね除けた。
 しかし、当たり所が悪かったようだ。
刀が真っ二つに折れてしまった。

「しまった……」

「おとなしくしてればいいものを!」

 得意の武器を失い、素手で戦うしか道がなくなった。

「もっと鍛錬しとくべきだったな……」

 そう苦笑しながら戦ってはいたが、並みの男よりは断然強い。
 しかし多勢に無勢、次第に形勢は不利になってきた。

「くそっ」

 そして、助三郎の頭上に太刀が振り下ろされた。
 受ける手は、ほかの敵への対処でふさがっている。
 もはやこれまでと、目をつぶった。

 目に浮かんだのは、早苗だった。





「助さん! 諦めるな!」

 男の怒声と、刀と刀がぶつかり合う音が聞こえた。
 はっとして目を開けると、見覚えのある大きな背中が見えた。

「格さん! 何しに来た!?」

 目を丸くしている助三郎を見ると、早苗は鼻で笑った。

「お前を助けるためだ!」

 そして、打ちかかってきた黒づくめの男の腹を峰打ちで抜き払った。
 助三郎は、早苗の手に太刀が握られているのを見た。
そして、震えながらどなり声をあげた。

「刀を抜くなって言ったろ! なんで約束を破った!?」

「今、そんなこと言ってる場合じゃない!」

 そう言ったそばから、また一人を峰打ちで切り捨てた。

「助さん!」

「……なんだ?」

「しっかりしろ!」

 今だ震えが消えない助三郎に喝を入れた。
しかし早苗は刀をしまいはしなかった。

「……俺は女として、妻としてお前を愛してる。
男として、お前の友達、同僚として、お前が大好きだ」

 助三郎の震えが止まった。
 
「この刀、二度と命を絶つためには使わない。お前を守るために使う。
お前を悲しませはしない。約束する。だから…… 助さん……」

 助三郎に笑顔が戻った。

「その嫁入り道具、今だけ貸してくれるか? 俺のは折れちまった……」

 早苗はにっこり笑うと、刀を差し出した。

「俺は素手でやる。水戸一の剣捌き見せてくれ」





 二人で戦っているうちに、いつしか、周りが明るくなってきた。
形勢不利と見たのか、黒づくめの男たちは
あっという間にいなくなってしまった。

「なんだったんだ? 一体…… そういえば、弥七は?」

 弥七まで姿を消し、そこにいるのは二人のみ。
仕方なく後始末を始めた早苗は、夫の折れた刀を見つけた。

「大事な刀が……」

 しかし、そのがっかりする気持ちは、
ふっと思いついた良いことに掻き消された。





「助三郎、あのさ……」

 早苗は途中で声をかけるのをやめた。

 彼は先ほど貸した刀をじっと見つめていた。
 その横顔は、いままでにない清々しさだった。

「格之進」

 彼は刀を鞘に納めると、めったに呼ばない呼び方で
早苗に向き合った。

「どうした?」

 そして、早苗を思いっきり抱きしめた。

「格之進。俺、もう大丈夫だ。怖くない。お前が刀持っても……」

 その言葉に、早苗は驚いた。

「……本当か?」

「あぁ…… ごめんな……」

 彼は穏やかな顔だった。
 ほっとした早苗は、抱きしめ返した。
 頬に涙が伝っていた。

「助三郎……」





 その様子を遠くから男が二人眺めていた。

「……世話かけたな」

「……いいえ。早苗の為です」
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