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 ←〈14〉 おとく又平 →【五章】 世を思ふゆゑに……
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「雪割草シリーズ」
凌霄花

 〈07〉 贈り物

 ←〈14〉 おとく又平 →【五章】 世を思ふゆゑに……
 役宅に戻るとすぐ、早苗は助三郎の傷の手当てをしていた。

「……打ち身が酷い。切り傷も。痛くないか?」

「大丈夫だ。それより、腹減った」

「ちょっと待ってろ。傷の手当が先だ」

 甲斐甲斐しく世話をする彼女に、助三郎はそっと窺った。

「……慣れたか?」

「ああ。自分ので慣れたよ、いい加減に」

 それどころじゃないといわんばかりに、ぶっきらぼうに答えた。
それが気に食わなかったのか、助三郎に手を掴まれた。

「なんだ?」

「……俺ので慣れるって言ってなかったか?」

「バカ!」

「あ、赤くなった」

 そこへお富がやってきた。

「さあ、朝餉です。お二人とも、傷の手当はそれぐらいにして、召し上がってください」






「もう大丈夫だ。ありがとう」

 早苗は夫の傷の手当てを終えた。
ほっと一息つきながら、後片付けをしていると、
気になったのか、聞かれてしまった。

「……戻れないか?」

「へ? あ、すまない。 暴れて興奮しすぎたみたいだ。
でもこのままで用事があるから、大丈夫だ」

「……ちぇ。早苗と一緒に昼寝しようと思ったのに」

「悪い。ゆっくり一人で寝ててくれ」

「わかった。早く帰ってこいよ!」

 早苗は気付かないよう、そっと助三郎の折れた刀を風呂敷に包むと、役宅を後にした。






「おはようございます、与兵衛さん」

 早苗は与兵衛を訪ねていた。

「おはようございます。なにかいいことありましたか?」

「はい!」

「それは良かった。あ、すみません、幸はあいにく不在で……」

「いいえ。与兵衛さんに用事があって参りました」

 与兵衛に事の次第とやりたいことを手短に説明した。

「……助三郎に新しい良い刀を買いたいんです」

「そうですか。折れた刀が有るから、それと同様の物から選べばまず問題無いですね。
早速探しに行きましょう」

 早苗は与兵衛に助けてもらい、金を惜しまず、一振りの刀を選び抜いた。
 満足げな早苗に、与兵衛は一つの助言をした。

「お二人で揃いの鍔を作るのはどうですか?」

「鍔?」

「笄でもいいですが、笄は早苗さんでも格さんでも使えます。
でも、鍔は格さんしか使えない。……早苗さんが決して踏み込めない」

「揃いの鍔…… 良いですね!」

 考えを巡らせる早苗の横で、与兵衛は己の刀の鍔に触れ、
 寂しげに小さな溜息を洩らした。





「今日は、本当にありがとうございました」

 茶屋で一服しながら、二人は談笑していた。

「お役に立てて、良かったです。これで、更にお二人の仲が深まりますね。羨ましい」

 早苗は、今まで気になっていたあの件について、意を決して彼に聞いた。

「……失礼ですが、与兵衛さんの一番の女性は誰ですか?」

 早苗の真意がわかっている与兵衛は、素直に答えた。

「……もちろん、由紀です」

「……元の由紀は、貴方に必要ですか?」

「もちろんです!」

 早苗はそれを受けると、懐から小さな壺を差し出した。

「……これは?」

「解毒剤です。これで、幸を元に戻せます」

「……これで?」

「はい」

「ありがとうございます……」

 手放しで大喜びはしない与兵衛。
少々気になった早苗は、世間話の延長で、意図せずに口を滑らせた。

「そういえば、与兵衛さん……」





 夕方、助三郎への贈り物をしっかり抱きかかえ、早苗が帰宅した。
部屋では、助三郎が丁度昼寝から目覚めていた。

「おう。お帰り」

「どうだ? よく寝られたか?」

「あぁ、ばっちりだ。 夜中まで起きてられる」

 早苗はそれを聞くと、再度宣言した。

「……じゃあ、話がある。夕餉のあと、いいか?」

「あぁ。約束だったな」





 二人きりで向き合うと、早苗はゆっくりと口を開いた。

「俺の脇腹の傷は、お前が見たとおり、確かに跡形もなく消えた。
……解毒剤を、変な薬飲んだ時よりも前に使ったんだ」

助三郎の表情は全く変わらなかった。

「……この間実家に帰った時、俺は首を斬った。自害しようとした。
その時、死にかけた俺に、兄上が解毒剤を飲ませた。
俺を一回、この世から消した。
だから、首の傷と一緒に脇腹の傷も消えたんだ……」

早苗は、一気にすべて言い切った。

「お前に救ってもらった命、俺は、また粗末にした…… すまなかった……」

 夫の反応に怯えた。
しかし、返って来たのは優しい言葉だった。

「ありがとう。やっと自分から話してくれたな……」

 そして、彼はしっかり早苗を抱きしめた。

「……知ってたのか?」

「……義兄上に聞いてたが、お前の口から聞きたかったんだ。
……すまん、嫌な事思い出させて」

「……ごめん、助三郎」

 助三郎の腕の中で早苗は涙を流した。





「……なあ、格さん。まだ戻れそうにないか?」

「大丈夫だ。戻れる。でも、まだ用事がある」

 そう言って身体を離し、贈物を差し出した。

「はい」

「えっ?なんだ?」

「新しい刀。折れたのは古かったし、ちょうどいいと思って……」

 何も言わない助三郎。

「ごめん…… お節介だったかな……」

 嬉しさのあまり、言葉が出なかっただけだった。

「いいや…… すごくうれしい。見てもいいか?」

「ああ」

 助三郎は鞘から刀を抜き払い、刀身を眺めた。

「ほぉ…… 素晴らしい……」

 剣士らしい夫の姿を惚れ惚れと眺めていたが、
彼のとった突然の行動にびっくりして声を上げた。

「え? 何するんだ!?」

「は? 刃の銘を見ようと思ったんだが……
あれ? もしかして、義父上から教わってないか?」

 普通の男なら、あり得ない。
早苗は正直に打ち明けた。

「ああ。何も教えてくれなかった。抜刀も納刀も全部助さんに教えてもらった」

 助三郎は嬉しそうに笑った。

「……そうか。じゃあ、もっといろいろ教えないとな」

 学ぶことが好きな早苗は純粋に喜んだ。

「教えてくれるか?」

「もちろん。でも当分無しだ。俺は忙しい」

 そう言うと助三郎は刀を丁寧に刀置きに安置した。
早苗は盛大にがっかりした。

「……今から仕事か?」

「いいや。当分弥七に任せることにする」

 更に早苗は落ち込んだ気分になった。

「……そうか、京にまた行くんだな?」

「いいや。あっちはお銀に任せてある。そもそも俺は、建前上格さんの謹慎を見張ってないとダメだ。無理だ」

「あ、そうか……」

「それと、お前も、今夜から真剣に謹慎してもらう」

 厳しい言葉に、早苗は意気消沈。
天国から地獄の気分だった。

「わかった……」

 しかし、なぜか助三郎は笑いだした。

「お前も相当鈍いな……」

「へ?」

「鈍い格さんに特別に教えてやろう」

 助三郎はキザって言った。

「忙しいのは、毎日早苗とイチャイチャするからだ。
格さんに本気で謹慎してもらわないと、早苗と二人っきりになれないからだ」

「えっ……」

 みるみる顔が赤くなる様子を、助三郎は笑ってからかった。

「……そのままでも十分可愛いぞ、格さん」

「う、うるさい!」

 ひとしきり笑ったあと、助三郎は真面目な顔で早苗に聞いた。

「すまんすまん。で、お前の謹慎はいつからにする?」

 答えはただ一つ。

「今から謹慎する。 ……だから、今すぐ早苗の姿に戻してくれ」
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