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「雪割草シリーズ」
翁草

〈05〉複雑な気持

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「可愛い…… 死ぬ……」

 再びのお嬢様の早苗の姿に、助三郎は悶絶し。
早苗はお銀に向かって怒っていた。

「お銀さん! 前より確実に派手じゃないですか!」

「あそこで悶えてる助さんに文句言いなさい。
奥手のくせに似合う色ちゃんとわかってるんだから、褒めてあげなさい」

「ふん!」

「可愛いんだから、笑ってくれ……」

「イヤよ!」

 とうとう助三郎は不満をもらした。

「……飛猿にはできて、俺にはできないのか」

 その言葉に、はっとした早苗。
今までの彼の言動、己の行動、飛猿やお銀の指摘。
 すべてがつながった気がした。

「……助三郎さま?」

「すまん。なんでもない……」

 一番は、助三郎。
 彼の前に座り、手をとり見つめた。

「……ほんとに可愛い?」

「あ、あぁ…… この世で一番だ」

「ありがと。助三郎さま!」

 抱き着かれた助三郎は再び悶絶した。






 光圀も早苗の姿を大いに喜んだ。

「可愛いの…… ずるいの、助三郎は……
もう少し若ければわしも……」

 助三郎はぞっとした。
妻を主に取られる恐怖を感じた彼は、そっと彼女を背後に隠した。

「御老公、そろそろお時間では……」

 家臣の心の乱れに気着いた光圀。
しかし、彼は何枚も上手だった。

「早苗、こっちへ」

 焦る夫を置いて、早苗は主の元へ。
彼女に光圀は耳打ちした。

「……今日の仕事も大事じゃ。
だが、助三郎を焦らせるのも大事。良いな?」

「はい。おじいさま」

 にこやかに答えると、三人は仕事へと向かった。





 茶会は和やかに楽しく進み、早苗はお初と二人で庭を散策。
いろいろたわいもないことを話して楽しい時間を過ごしていたが、
突然、お初が真剣な眼差しになった。

「早苗ちゃん、助さんをお婿さんに選んだのは、おじいさまよね?
どうして、承諾したの?」

 早苗は少し考え、こう答えた。

「いろんな人とお見合いしたわ。でも、何か違うなって。
悩んでた時に、いつもそばにいる助三郎に相談してみたの。そしたら……」

「そしたら?」

 早苗は妄想した。そして、理想的な話を作り上げた。

「突然、『私にも、お嬢様とお見合いする権利はありますか?』って……」

「それで?」

 お初は興味深々。

「びっくりして、わたし逃げちゃった。そのせいで、お互いよそよそしくなっちゃって……」

「……それで?」

「でもそれがきっかけで、自分の気持ちを考え始めた。初めて男の人として見るようになった……
でも、決定的になったのは……」

 さらに早苗は妄想した。

「蔵で探し物してたの、一人で。だめよね、御供もつけずに。
いろいろ触ってたら、上から荷物が落ちてきて…… けがするかなってぼーっと思っただけで体が動かなかった。
気づいたら、わたしのうえに助三郎が覆いかぶさって、庇ってくれてたの」

 さらに妄想をつづけた。

「初めて怒られた。『一人で危ないだろ!』 って。
気づいたら、抱きしめられてた。『無事でよかった…… 早苗……』って」

 もっと危ない状況で助けてもらった思い出を美化した。
目を輝かせながら聞くお初。

「自分が怪我しても、私を守ってくれた。大事に思ってくれてるってわかった。
だから、お見合い全部断って、助三郎を選んだの」


 遠くで、徳兵衛と一緒にいる助三郎の姿を、じっと眺めた。





 手代二人組は庭の隅で茶飲話。
 しかし、そこには酒があった。

「お嬢様からです。一杯やりましょう」

「ありがとうございます……」

 日々の仕事の話、苦労話、いろいろ話していたが、酒が回り始めた。
徳兵衛は深いため息をついた。

「助さんが羨ましいな……」

「どうしてです?」

「好きな仕事を続けられる。羨ましい」

 何かある。直感した彼は突っ込んで聞くことにした。

「徳さんは、そのまま番頭になって、末は暖簾分けじゃないんですか?」

 寂し気な徳兵衛は、遠くにいるお初を眺め、苦しげに吐いた。

「そう望んでいたんですが…… 近々、紙問屋のお嬢さんと見合いをしないといけません」

「え?」

 意味が分からない。なぜ手代が他の御店のお嬢様と見合いをするのか?

「さ、もうちょっと飲みましょう」

 助三郎は徳兵衛に酒を進めた。
勧められた酒をくっと呷った徳兵衛は、説明を始めた。

「私は表向きでは駒屋の長男なんです。お嬢様とは、兄妹……」

 助三郎は聞き捨てならないことを聞いた気がした。

「でも、血は繋がっていません。私はもらい子です。
私が、三つの時に、亡くなった大旦那様に仕えていた父母が流行病で死にました。
一人残った私は、子どものいなかった旦那様と女将さんに息子として育てられたんです。
 そして、私が八つになったとき、お嬢様が生まれたんです」

 助三郎は合点した。

「『お兄ちゃん』とは、そういう事ですか……」

「はい。一昨年、勉強ということで、手代見習いを始めました。
 それを機に、私は他の奉公人達と同じ離れで暮らすことにしたのです」

「なぜ?」

 長男なら、母屋で暮らせばいい。なぜなのか。

「表向きは、勉強のためです。でも……」

 彼は再び遠くのお初を眺めた。
 助三郎はそっと酒を杯に注いだ。

「お嬢様を、『妹』として見られなくなったんです……」

 助三郎ははっとした。
飛猿がある日突然消えた理由。
 あれはもしや……

 しかし、考え事を隅に追いやるとさらに突っ込んで聞くことにした。

「でも、血がつながってないのなら、別に問題は……」

「お嬢様は、私を本当の兄だと信じています。
実子として分け隔てなく育ててくださった旦那様と女将さんには感謝しています。
でも、ここに来てその弊害が出てくるとは……」

「お初さんは、徳さんの気持ちには……」

「かなり怪しんでると思います…… あんなことしてしまったばっかりに……」

「あんなこと、とは……」

「手代になった日、お嬢様は私にこのお守りを下さったんです。
『お兄ちゃん。頑張ってね』と……
 そういう時、いつも私は妹の頭を撫でていました。嬉しそうに笑う妹は、本当に可愛かった。
 しかし、その日わたしはたまらずに、抱き締めてしまいました……
 慌てて離しましたが、お嬢さまは驚いたようで、逃げてしまいました……」

 助三郎はどう返そうか迷った。
しばらくの後、考えた末、口を開いた。

「その後、名前を呼ぶのをやめ、『お嬢様』と?」

「はい。そのうち迷いも醒めるかと思い……」

「醒めそうですか?」

 その答えは返ってこなかった。

「外の御店のお嬢様と見合いを早々に決めて、店を出たほうがいいかもしれません……」

「旦那様や女将さんに相談は?」

「していません……」

「一度相談すべきでは?」

「実子として育ててもらっただけでも感謝しきれないのに、妹として扱ってきたお嬢さんを嫁にくれなどと……
言えるわけがありません……」

 複雑な徳兵衛の心境。
助三郎はかける言葉を見つけられなかった。





「またね、早苗ちゃん」

「またね、お初ちゃん」

 夕暮れ時、二人は別れた。
御供の助三郎と、徳兵衛も二人に付き従う。

 皆、何やら浮かない顔をしていた。





 お銀に早苗を任せ、助三郎は光圀を屋敷まで護衛した。
浮かない様子の彼に、光圀は気づいた。

「どうした助さん?」

「はっ…… 力不足で、うまく聞き出せませんでしたので……」

 事実だった。
 駒屋の見合いの話を聞き出さなければいけなかったのに、
お初と徳兵衛の重い複雑な話ししか入手できなかった。

「そうか。どうするつもりじゃ?」

「早苗と今夜話し合い、飛猿とお銀の情報もまとめます。そこから次の手を考えようかと」

「わかった。じゃが、早苗とは仕事ばかりもいかんぞ。助さん」

「はい……」

「今夜は、まず飛猿と仕事じゃな」

「え?」
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