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「雪割草シリーズ」
翁草

〈06〉お灸

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 気配を感じた方へ眼をやると、いつの間にか彼はいた。

「……仕事とは?」

「一杯やりに行くのじゃ、飛猿と」

 突拍子もないことを言われ、助三郎は口答えを始めた。

「それは仕事というのでしょうか……」

「命令じゃ、ほれ軍資金もある」

 命令と言われ、さらに金まで渡されてしまった。
引けなくなった彼は、渋々飛猿と飲みに行くことにした。

 人があまり入っていない静かそうな店を選び、奥の席を陣取った。
 適当に肴を頼むと、互いに酌をし一杯目を干した。

「まさか、こうして助けさんと飲めるようになるとは……」

 ふっと笑い、感慨深げにつぶやく飛猿。
少し緊張が解けた助三郎も柔らかな口調で返した。

「いつまでもガキじゃないさ、俺も」

「そうですね……」

 しかし、会話が続かない。
二人の間には静かな時が流れた。

 助三郎が肴に手を伸ばした時、飛猿が聞いた。

「焼もち、ですよね?」

「な、何が?」

 驚いた助三郎をよそに、飛猿は話し続けた。

「早苗の言動です……」

 やはり彼は全て分かっていた。
どう言っていいかわからない助三郎は、黙っていた。

「注意したんですがね、あいつはよくわかってないようだ……」

「そうなのか?」

「無駄な焼きもちなんか焼かず、早苗にガツンと行けばいいじゃないですか。
早苗の一番は助さんだ」

「だが……」

「煮え切らねぇな…… よし。早苗のためだ。墓場まで持っていくつもりだったこと、話します」

「……なんだ?」

「俺は昔っから、今でも早苗が好きです。女として」

 助三郎の背筋に冷たいものが走った。
やはりそうだったのだ。

「俺は、早苗のじい様に拾われました。だから、血のつながりがある本当の親戚じゃない」

 さらに助三郎は衝撃を覚えた。
 血のつながりがない。まるで、お初と徳兵衛…

「早苗は、俺は親戚のにいちゃんだといまだに信じてますがね……」

 助三郎の心のざわつきに気づいた飛猿。
彼はあわてなかった。言うべきことはまだある。

「ご安心を、助さんから早苗を奪おうだなんて、昔っからこれっぽっちも思ってません。
助さんは武士です。俺はただの忍…… 不相応です。
だから、俺は橋野様の家を出たんです。早苗をすっぱり諦める為に……
早苗の為に…… ですがね……」

 青ざめてうつむいている助三郎を気遣い、彼に酒を勧めた。

「早苗はちびの時から、助さんしか見ちゃいなかった。早苗の世界に男は助さんしか居ないんですよ。
俺の居場所はない…… だから自信をもってください。早苗の為にも」

 助三郎の顔色が幾何かましになった。

「お願いします…… 早苗を幸せにできるのは、助さんしかいないんですよ」

「そうか?」

「はい」

「ありがとう……」

 助三郎の中から、様々な恐怖が消え去った。





 程よく酔った助三郎は明るい気分で戻ってきた。
部屋には、早苗がむっつりして待っていた。
昼間と同じ、お嬢様の格好で。

「おや?どうしました? お嬢様」

 少々酔っている助三郎はご機嫌にそう言ったが、早苗は怒っていた。

「もう! せっかく我慢してこのままでいたのに。どこ行ってたの!」

 怒っている妻をさらに怒らせないためには、正直に答えるのが一番。

「ちょっと飛猿と飲みに……」

「お兄ちゃんと飲みに行ってたの? もう怖くないのね?」

 うれしそうな彼女の笑顔、しかし、助三郎はもう嫉妬しなかった。

「すまん。で、お初さんはどうでしたか? 早苗お嬢様」

「お見合い逃げてるのは、好きな人が居るからだって……」

 もしやと思った彼は、さらに聞いた。

「それでその好きな人は?」

「……秘密にしてね。お初ちゃん、そのせいで今物凄く悩んでるの」

 なんとなくわかった気がした。

「徳兵衛さんを、お兄ちゃんを好きになっちゃったって……」

 やはりそうだったのだ。

「お初ちゃんがお兄ちゃんを好きなこと、お兄ちゃんに気取られて
冷たくされてるんじゃ無いかって……
お父さんやお母さんにも気付かれたせいで、
お兄ちゃんは母屋から追い払われて他の手代と同じ扱いさせされてるんじゃ無いかって……」

 わかっている助三郎は、これからどう動けばいいのかをも計画をその場で組み立てた。
そして、不安がる妻にやさしく言葉をかけた。

「早苗、大丈夫だ。何の問題もない。むしろ最高だ」

「どうして?」

「二人は血が繋がってない。徳さんも同じだ。お初さんを妹として見られなくなったって……」

「え!? じゃあ、好きになっても大丈夫ってこと?」

「そうだ。必要なのは、お互い素直になることと、悪い奴を、懲らしめることだ」

「よかった……」





 本当に幸せそうな早苗の姿に、助三郎はうずうずし始めた。

「ところで、お嬢様……」

 早苗も安心しきって余裕が出たのか、彼の芝居に乗った。

「なに? 助三郎?」

「ごめん……」

 助三郎はそっと唇を重ねた。

「お嬢様。もうこれ以上、我慢出来ません……」

「許してあげてもいいけど、私の命令聞いてくれなきゃダメ」

 早苗は無邪気に笑った。

「なんでしょう? お嬢様」

「お嬢様って呼ぶのは禁止。早苗って呼んで。です、ますもだめ」

 かわいい命令に、助三郎は笑い返した。

「……早苗」

「そう」

「これでいいか? 早苗?」

「えぇ。あ、でも、ここじゃダメよ、ちょっと待って…… あっ……」





 藩邸の庭の隅、お銀は突然男から声をかけられた。

「……お銀。どこ行く?」

「早苗さんに報告よ」

「明日の朝にしな。お嬢様は、手代の助さんとお楽しみ中だ」

 お銀は笑みを浮かべた。
ようやく今夜は夫婦らしい夜になったようだ。

「まぁ! いけない手代さんね! 大旦那様に言いつけないと!」

 お銀は報告には向かわず姿を消した。
一人残された飛猿は夜空を見上げてつぶやいた。

「……灸が効いたかな?」
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