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「雪割草シリーズ」
凌霄花

 〈03〉 大事なもの

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 その日、助三郎は久しぶりに堀部安兵衛への接触を試みていた。
町人の姿で近づけば怪しまれる。故に本来の侍の姿で。
 偶然見かけた体で、彼に近寄った。

「あれ? 安兵衛さん? お久しぶりです!」

 彼は自分の名を呼ぶ声を聞くと一瞬怪訝そうな顔をしたが、
声の主を確認するなり笑顔になった。

「助さん? お久しぶりです。江戸にいたんですか?」

「はい」

「いつまでこっちに?」

「今年から江戸詰なんです。なので当分は」

 こう言っておけば、しばしば接触できるようになる。
若干の緊張を押し殺しながら、相手の様子をうかがった。

「そうか。じゃ、今日は景気付けにいっぱい飲みに行こう」

 前と変わらない彼の様子に、内心ホッとした助三郎だった。





 昼間から二人は居酒屋で飲み始めた。

「……へぇ。では、早苗さんも江戸に?」

「はい、連れてきました」

「鴛鴦夫婦だもんな、お二人さんは」

 いや、と照れながらも、彼は次の手をも打った。

「なので今度は早苗も会いたいと言ってますので
是非、ほりさんもご一緒に」

「そうだな。では、近いうちに…… あれ? ちょっと失礼」

 店の外に何かを見つけたと見え、席を外した。
しかし、あっという間に戻って来た。

「すみません。友がさっき通って。戻ってきたら紹介させてくれないか?」

「はい。ぜひ」

 緊張を覚えた。
水戸藩に探りを入れるため、紹介するつもりかもしれない。
 仕事の助三郎はそう身構えた。

「米屋の手代で、金右衛門。助さんと似たような年だと思う」

 しかし、その言葉で、本来の助三郎は期待した。
 年が近い。それだけでどれだけ魅力的か。
だが手放しで喜ばずに探りを入れた。

「……安兵衛さんとはどういうご関係ですか?」

「浪人時代に世話になった。その時からの友達だ」

 そう言われても、完全には信じられない。
一抹の悲しさを覚えながら、助三郎は笑みを浮かべた。
 あの事件がなかったら、どんなによかっただろうか。
彼は浪人などにならず、一藩士のまま自分とは普通の友人関係が続けられていた。
 しかし、過ぎたことは変えられない。
 安兵衛に気づかれないほどの小さなため息をついた。

 そんな彼をよそに、安兵衛は噂の金右衛門を見つけたとみえ、
声を上げた。

「お、来た来た。金右衛門こっちだ!」

 次の瞬間、助三郎は己の目を疑った。

「え……?」

「初めまして。金右衛門です」

そして耳をも疑った。

 目の前に、己の一番の親友である、
『格さん』と瓜二つの男が立っていた。

「どうした? 助さん?」

「あ、すみません。男前だなって……」

 真の理由は隠した。万が一のことがある。
しかし、その男は本当に格之進にそっくりだった。爽やかな笑顔も優しい声も。
本人ではないのだろうかと本気で疑った。

「水戸藩の佐々木助三郎と申します」

「水戸藩の。よろしくお願いします。佐々木様」

 頭を下げた彼を即座に制した。

「佐々木様はやめて欲しい。助さん、って呼んで欲しい」

「はい。では、助さん」

「あと、です。ます。もやめて欲しい」

「え? いいんですか?」

「ああ。格…… 金さんと友達になりたい」

 仕事の自分に本来の自分が勝ってしまった。
しかし当の金右衛門もうれしそうにみえるし、紹介した安兵衛も満足気であった。
 もしかしたら、無用な警戒はしなくてもいいのかもしれない。
期待した。

「こいつ、最近元気がなくて。似たような歳の友達ができたら、
少しは元気になるかなって思ったんだ。よかったな、金右衛門」

「はい!」

 真昼間から始まった三人の飲み会だったが、
日が傾き始めたころにお開きとなった。
 助三郎は金右衛門が格之進とは別人だとおおいに納得していた。
 そして、同時に例えようのない嬉しさを実感していた。
 何度願ったかわからない願いが、今完全ではないが現実となっている。

「じゃ、また。金さん」

「また。助さん」

 絶対に彼にまた会いたい。助三郎は強く思った。





 きれいな夕焼けの中、彼は帰宅した。

「ただいま……」

 玄関で出迎えたのは早苗ではなくお富だった。

「あれ? 早苗は? 今日休みだよな?」

 さっき分かれたのはやはり格之進ではないかという考えがふと沸いた。
しかし、すぐさま下女の言葉でそれは打ち消された。

「はい。お庭にいらっしゃいます」

 クロと遊んでるのだろう。
そう思った助三郎はお富に刀を渡すと、庭へと向かった。

 庭には、さっき別れた男とそっくりな男が、真剣を構えていた。
驚いた助三郎だったが、同時に自分の変化を感じていた。
 少し前までは怖くてしょうがなかった、真剣を手にする格之進の姿。
しかし、今は全く怖くない。その証拠に構えの悪さに目がいった。

「もっと腰を落とせ。脇は空きすぎだ」

 声をかけられ、驚いたと見える早苗。
上ずった声を上げながら助三郎のほうを向いた。

「へ? 助さん?」

 しかし、助三郎は真面目に指摘した。

「いいから、集中だ」

「わかった……」

 夫に言われた点を直したが、指摘を食らった。

「搾りが甘い。それと、まだ腰が高い」

「う…… こうか?」

「全然ダメだ。なんでだ? あ……」

何かに気づいた助三郎。
一方で全くわからない早苗。

「なんだ?」

 苦笑しながら助三郎は指摘した。

「自分の脚の長さを全く自覚してないだろ」

「よくわからん」

「憎いやつだ。いいから腰をだな……」

 ああだこうだ、手取り足取りやっては見たが、
結局合格点はもらえなかった。

「すぐできるものじゃない。身体で覚えろ」

「ありがとう、助さん。じゃそろそろ夕餉の支度……」

 なんとなく気まずい雰囲気を感じ取った早苗は女に戻ろうとした。
しかし、夫に止められた。

「ダメだ。格さんにまだ用事がある。お富!水と手ぬぐい持ってきてくれ」

 戻れなくなった早苗は、おとなしく手ぬぐいで額と首の汗を拭き、
水を飲みほした。
 そして、ずっと自分を見ている助三郎の言葉を待った。

「なんで隠れて稽古してるんだ? 俺が真剣を持つの禁じてたからか?」

「あぁ……」

 ため息まじりに答えた。
 怒られるのではと身構えたが、
予想に反し、彼はただ謝った。

「すまん…… でももう大丈夫だ。これからは一緒にやろう」

「ありがとう……」

 一緒にやろう。うれしい言葉を嚙み締めた早苗だったが、
すぐさまがっかりした。

「でも、やっぱりまずは木刀中心だ」

「なんで?」

「当たり前だ。基礎からやり直し」

「はぁ……」

 やはり鍛錬不足だった。そう痛感した早苗は肩を落とし
 ため息をついた。

 そんな彼女の肩をポンとたたき、助三郎は褒め始めた。

「でも、読み書きそろばんは人並み以上、柔術国一番。
舞踊もできるし料理もできる。最強じゃないか」

 久しぶりに手放しで褒められた早苗は赤面し、
 うつむいた。

「……あと、かわいい」

 ふざけて顎をすくった彼の手を、すぐさまつかんだ。

「道理で酒の匂いがすると思った。酔ってるじゃないか」

 体を動かしたせいで回ったらしい。

「酔ってない。いいだろべつに、早苗!」

 抱き着いてきた彼を、無下に投げ飛ばすこともできない。
どうしたもんかとされるがまま考えていると、
 上機嫌の助三郎が切り出した。

「格さん。久々に一杯どうだ今夜?」

 本当に久しぶりの誘いだった。
 ここ最近ずっと夜は早苗と過ごしてきた彼、
 何か話があるに違いない。

「いいが。その酔いがさめてからだ」

「ちぇ……」





「本当に一杯かよ……」

 いざ酒盛り。目の前に置かれたお猪口に酒が入ってるだけ。
周りには徳利も何もなし。
 ぐいっと飲んだらおしまい。

「ああ。十分飲んだんだろ? 昼間に」

 そういえば、と思い出した。
そっくりな男と、楽しく酒盛りをしたのだったと。

「で、お前は?」

 徳利はおろか、お猪口さえも見当たらない。
代わりにせんべいと湯呑、急須。

「お富に今後一切の禁酒を食らった…… 『懐妊されてた場合どうされるんですか!』って
珍しく怒られた……」

 がっかりした様子の彼女に、助三郎は思い切って聞いてみた。
 それは、面と向かって聞けないことだった。

「……気配は?」

 せんべいを割った。

「まったくないよ! だから一杯でいいから飲みたかったのに」

 懐妊の兆しなし。
酒も飲めない。
苛立ちをあらわにする早苗に、助三郎は猪口を差し出した。

「まぁ、焦ったり気に病むのだけはやめてくれ。俺も頑張るから。今日は飲め。な?」

「え? いいのか?」

 パッと明るくなった表情に、助三郎も安堵した。

「……内緒だぞ」

「ありがとう!」

 ぐいっとやらず、二口ほどで飲み干すさまを眺め、
感想を聞いた。

「うまいか?」

「うまいが、これだけじゃ酒の味はわからん」

 普段のかわいらしい武家の妻女の姿とはかけ離れた
 大酒飲みの発言に、助三郎は天を仰いだ。

「……うわばみめ」

「うるさい。で、どうだった。安兵衛さんは?」

 早苗が聞きたいのはそれだった。
助三郎も頭を切り替えた。

「元気良さそうだ。……だが、こっちにはそぶりも見せない」

 事実、彼はまたもや新しい仕官先を探してると話した。
仇討の様子など一切見せない。

「だが、弥七が言うには、結構な頻度で仲間とやりとりしてるんだろう?」

「そうなんだ。俺には極力知られたくないんだろう。うちは水戸だからな」

 大藩に知られれば、幕府の上層部にも筒抜けになる。
それを恐れているに違いない。

「やっぱり弥七に探らせるのが一番か?」

「かもしれんな。でも、弥七も忙しいからな……」

「じゃあ、俺がほりさんに探り入れようか?」

 もちろん、早苗の姿で。妻どおしの会話から何かつかめるかもしれない。

「……頼めるか?」

「ああ。お孝誘って行く。二人のほうが怪しまれない」

「わかった。くれぐれも、安兵衛さんには早苗で接触するように。格さんは厳禁だ。いいな?」

「なんで?」

「一回も会ってないだろ? 公儀隠密とか、吉良方と勘違いされたらたまったもんじゃない」

「それもそうだ……」

 それはこじつけ。
本当は、早苗と格之進を守るため。
 万が一、そっくりな金右衛門が安兵衛の仲間、赤穂藩士だった場合……
様々な恐れが浮かんでは消えた。

最も大事なのは、目の前の妻であり友である人だった。
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